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社説 日米地位協定 「見直し」といえるのか

 日米両政府は、在日米軍の軍人・軍属の犯罪処分通知に関わる地位協定の運用見直しに合意した。米側による裁判の確定判決だけが日本側に通知されている現状を改めるという。岸田文雄外相と小野寺五典防衛相がおととい、沖縄県の仲井真弘多知事と会談して伝えた。

 席上、外相らは米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設について、あらためて理解を求めた。だが、この程度の運用見直しでは説得材料にはなるまい。知事が「理解できかねる」と反論したのは当然だろう。

 沖縄側は地位協定については抜本的な改定を求めてきたはずだ。刑事裁判権に関する部分的な手直しだけでは、ギャップがありすぎるのではないか。「県民の負担軽減」に取り組む姿勢を疑われてもしかたがない。

 そもそも刑事裁判権の規定自体が日本の司法権の侵害に当たる疑いが強い。たとえば米軍に第1次裁判権を与え、その権利の放棄は米軍の「好意的考慮」に基づく。それを日本政府も黙認してきたといえよう。

 沖縄では昨年も、米兵によって日本人が被害を受ける事件が相次いだ。直ちに被害届が出されて警察が容疑者を拘束した例もあれば、基地の「壁」の前に捜査が行き詰まった例もある。

 今回の運用見直しにより、未確定判決や軍の懲戒処分・不処分も通知するという。米側から提供を受け、外務省が原則として公表する。犯罪の再発防止には一歩前進であろう。

 だが、これまでの運用自体が地位協定の条文に則して妥当だったのかどうか、疑問が残る。

 刑事裁判権を定めた地位協定17条は「(日米双方は)裁判権を行使する権利が競合するすべての事件の処理について相互に通告しなければならない」と規定している。確定判決だけでなく全ての処分を通告する、と解釈することができよう。

 ならば、守られていなかったことを今後守る、と宣言したにすぎない。しかも今回の運用見直し後も、結果が全面開示される保証はない。個人情報保護の観点から、加害者が同意した範囲で伝えられるという。

 これでは米軍の裁量次第で骨抜きになる。来年1月の適用までに再検討すべきである。

 地位協定の問題は刑事裁判権だけではない。最近では沖縄市の基地跡地に猛毒のダイオキシンドラム缶が投棄されていた。米軍には環境汚染に関する国内法令の適用を免除し、内規に任せていた結果にほかなるまい。

 8月、宜野座村の米軍演習場内に米軍ヘリが墜落した際も、警察や消防は事故直後立ち入りを拒否された。これまた、地位協定に基づく「排他的管理権」である。火災の延焼や水源汚染を防いで住民の安全や健康を守る手だてが封じられている。

 沖縄だけではない。かねて中国山地で繰り返され住民の不安をあおっている米軍機の飛行訓練は、日本の航空法が適用されない。

 安倍政権は地位協定の抜本改定にかじを切るべきではないか。外務省筋は「今回のような運用改善を一つ一つ重ねるしかない」というが、本気度が問われよう。

 再びみたび、米軍や米兵による重大な事故や事件が発生したとき、日米同盟の存在を揺るがす事態になりかねない。

(2013年10月10日朝刊掲載)

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