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社説・コラム

天風録 『1972年「はじまりのおわり」』

 元日本兵の横井庄一さんがグアム島の密林から帰還して今月で50年になる。それほどの歳月が―とご年配の読者はつぶやくか。横井さんの「恥ずかしながら―」は流行語に▲その月には札幌冬季五輪も開かれた。名曲「虹と雪のバラード」は2度目の招致へ、北の町で今また流れているという。テレビドラマ「木枯(こがら)し紋次郎」が始まった年でもあった。「あっしにはかかわりのないことで」が口癖の流れ者が義を貫く結末に、テレビ桟敷は留飲を下げた▲連合赤軍による、あさま山荘事件も50年を迎える。10日間に及ぶ籠城と銃撃戦は世を震撼(しんかん)させた▲1972年を「はじまりのおわり」と見立てたのは早世した評論家坪内祐三さんだった。あの頃、60年代以降の「政治の季節」は曲がり角に至った感があったのだろう。だが「革命は銃口から」という幻想にとらわれた一部の若者たちは突き進む。あさま山荘落城後、冷たい土の下では同志たちが埋もれていた▲山荘で人質になり、その地・軽井沢に今も夫と暮らす女性が今月、地元紙の取材に応じた。隣人は事件を知っていても「スルーしてくれる」という。夫妻の心穏やかな日々を願い、全ての犠牲者を悼む節目とする。

(2022年2月17日朝刊掲載)

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