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連載・特集

知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態 第3部 汚された大地 米国 <3> オープンエア 大気中での実射否定 標的に戦車使わず

 ニューメキシコ州立工科大学は、サッコロ市のほぼ西端にあった。こぢんまりとしたキャンパスの向こうには、大学が運営・管理するエネルギー物質研究試験センター(EMRTC)の試射場の山々が望めた。

軍需企業もテスト

 「ようこそ」。副学長のバン・ロメロさん(44)が、大きな手を差し出した。「ブラウンホール」ビル二階の一室。ジーンズにスニーカー。ラフな格好のロメロさんは、オープンな態度を示しながらも、テーブルに置いたカメラを見ると「私の写真は撮らないでほしい」と注文を付けた。

 「大学で今一番力を入れている研究はテロ対策。テロリストに顔を宣伝するようなことはできないんだ」

 大学の創立は一八九三年。鉱物資源の発掘などを目的にスタートしたが、第二次世界大戦中から武器開発に関与し、今では百四十人の教授陣のうち百人は、ミサイルの弾頭など武器の研究開発にかかわるEMRTC部門に属する。学生数は院生を含め千五百人。

 広さ約八千ヘクタールの試射場は、大学で開発した武器と同時に、国防総省や軍需関連企業のテスト場でもあった。

 「劣化ウラン弾は大学でも研究してきた。しかし、研究全体からすると五%以内。ほとんどは、軍やエアロジェット軍需会社など製造企業の持ち込みによるテストだ」

20年余で40トン使用

 一九七二年の開始から九三年までに、四十トンの劣化ウランを使用したという。実射試験では「戦車を標的に、遮へいのない状態(オープンエア)で実施していたのでは」と尋ねると、ロメロさんは言下に否定した。

 「戦車は標的として一度も使っていない。それに劣化ウラン弾のテストでは、最初から常に遮へい用のキャッチボックスを使用していた」

 彼の説明では、キャッチボックスは木の箱でできていて、その中に砂を詰めておく。そして鉛、鉄など一枚の金属板を標的としてそこに立てかけ、劣化ウラン弾を発射する。この方法だと、健康障害などに一番影響する劣化ウラン微粒子の大気中への飛散を封印できるというのだ。

 実戦でどれだけ威力を発揮できるか。実物を使わなければ、正確なデータは得られないだろう。そう問うと、「科学者は複雑な要素を持つ標的より、特定の物質に対しウラン弾がどれだけの効果があるかを知りたい。これで十分なのだ」。ロメロさんは、白板に図を描きながら自信たっぷりに言った。

 「それにみんなが口にし、われわれも使ってきたオープンエア・テストというのは、戦車などからウラン弾を発射してキャッチボックスに至るまでの飛行状態を指すのだ。遮へいのない、オープン状態とは違う」

 EMRTCでは、この言葉に対して米国内の類似の施設とは違う解釈を与えていた。

現在の状況答えず

 大学側も、「監視役」の州環境保護局も、試射場やサッコロ市内の劣化ウランによる環境汚染を、これまでに何度も調査してきたという。「その結果、試射場でさえ、環境への劣化ウランの放出はない。重金属による汚染も見られないとのデータが得られた」と強調する。

 大学では今も、有線誘導による対戦車砲の「トウ・ミサイル」の改良を続ける。弾頭に劣化ウランを使っているとの見方もある。ロメロさんは「他の施設は知らないが、ここでは使っていない。使用物質については明かせない」と、明確な答えを拒んだ。

 劣化ウラン弾よりテロ対策について、より時間を割いて説明しようとしたロメロさん。彼の名刺には「新しい千年紀のための思考」と、大学のキャッチフレーズが刷り込まれていた。彼らが思い描く新思考とは一体何なのだろうか…。

(2000年5月16日朝刊掲載)

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