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社説・コラム

『書評』 郷土の本 広島発展に力 財界10人に光

 郷土史家の田辺良平さん(87)=広島市東区=が大正期から戦後復興期の地域発展に力を尽くした財界人10人の評伝「続・広島を元気にした男たち」を出版した。地場金融や広島港など市民生活を支える「インフラ」の礎を築いた先人の足跡をたどる。

 1929年創業の百貨店福屋で初代社長を務めた金田栄太郎氏、宇品港(現広島港)の整備に貢献した田中喜四郎氏、19年に私有地を提供し、後に舟入市民病院となる伝染病院の拡張を実現した古川久吉氏ら「影の立役者」に光を当てた。

 「大正期の広島は、路面電車が開通し、県物産陳列館(現原爆ドーム)も建った。非常に活気があった」と田辺さん。「われわれの生活は彼らの努力の恩恵を受けている」と強調する。

 最終章では「金融面から復興に尽力した」として、被爆前後に日本銀行広島支店長を務めた吉川智慧丸(ちえまる)氏に紙幅を割いた。三男清さん(88)=東京=から譲り受けた直筆の回想録のコピーや、日銀の資料を引用。自ら大けがを負いながら、すぐ再建に向けて動き、8月8日の営業再開にこぎ着けた経緯をひもとく。「吉川さんの英断が広島の復興の端緒になった」

 田辺さんは53年に広島銀行へ入り「創業百年史」の編集を担当。被爆行員への聞き取りや、被爆資料の収集に取り組んだ。2007年に出版した自著の続編で、10~19年発行の地元誌「経済春秋」への寄稿を抜粋した。

 春秋社。1100円。(桑島美帆)

(2022年2月20日朝刊掲載)

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