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交響曲に芽吹く被爆樹木の命 米作曲家 「黒い雨に続く希望の緑」 広島の市民活動から着想

 米国の作曲家スティーブ・ハイツェグさん(62)=ミネソタ州セントポール=が、被爆者と被爆樹木にささげる交響曲「GREEN HOPE AFTER BLACK RAIN(黒い雨に続く希望の緑)」を作曲した。被爆樹木を広める広島での市民活動に感銘を受けたという。5月に現地の交響楽団が初演を予定。広島と長崎での演奏も目指す。(桑島美帆)

 第2次世界大戦中、日系人が過酷な生活を強いられたマンザナー強制収容所をテーマにした第1楽章に続き、被爆者を追悼する第2楽章「戻れない風」、被爆樹木の生きる力を表現した第3楽章「平和の種」で構成する約16分の曲。重厚なメロディーの中に、折り鶴や広島の石、被爆イチョウの種を使った軽やかな効果音も刻む。

 「戦争がもたらす喪失感や惨状、悲しみとともに、未来への希望と世界平和への思いを込めた」。第2楽章のタイトルは、広島の高校生たちの呼び掛けで元安川沿いに建立された「原爆犠牲ヒロシマの碑」の碑文にちなむ。

 ハイツェグさんはエミー賞の受賞歴を持つ。イラク戦争中の爆弾テロで犠牲になった国連事務総長特別代表らを追悼する曲が、ニューヨークの国連本部で演奏されたこともある。

 今回の交響曲はもともと、20年に地元の交響楽団から設立75年記念として創作を依頼された作品だ。セントポールは65年以上にわたり長崎市と姉妹都市で、毎年8月9日には慰霊祭も開かれているという。被爆75年であることにも思いを寄せて創作に取り組んでいた折、米国の反核団体を通じて被爆樹木の種や苗を国内外に送っている「グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ」(GLH、広島市中区)とつながった。原爆を耐えた命を広める活動に心動かされた。

 共同創設者のナスリーン・アジミさんと渡部朋子さん(68)たちは「新型コロナウイルス禍でも、できることで力になりたい」と協力。渡部さんは仲間と碇(いかり)神社(中区)の被爆桜の花びらを押し花に加工し、ハイツェグさんへ送付。創作意欲を後押しした。

 初演となる定期演奏会は5月8日。「近い将来、広島と長崎でも演奏してもらいたい」とハイツェグさんは願う。アジミさんと渡部さんは「広島の被爆樹木の可能性は無限。世界の一人一人の思いがこの曲を作り上げた」と共に喜び、広島での演奏実現に向けて模索を始めている。

(2022年2月21日朝刊掲載)

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