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遺品 無言の証人

[無言の証人] 衣料切符

統制下の暮らし刻む

 大半が未使用のまま残された「衣料切符」のつづり。かつて広島市八丁堀(現中区)で自動車部品販売店を営んだ故山田勝美さん(当時40歳)が保管していた。爆心地から約800メートルの全焼区域にもかかわらず、金庫の中で奇跡的に焼失を免れた。

 衣料切符は、戦時下で物不足が深刻化する中、国が物資を管理するため各家庭に配布された。決められた点数分の切符と、シャツや手拭いなどを交換する仕組みだった。だが、戦争がますます激しくなるにつれ、切符と交換する商品に事欠く状態が続いたという。

 被爆40年を迎える1985年4月、山田さんは、金庫で保管していた郵便貯金通帳や保険証書と一緒に、この切符を原爆資料館へ寄贈した。熱線による火災で焼け焦げたような跡が残る書類もある。劣化が激しく、ふだんは地下の収蔵庫で眠ったままだ。

 山田さんは原爆で母や兄、姉たちを失ったとみられるが、寄贈時に職員が聞き取った記録はわずか。衣料切符には、妻君枝さんや息子たちの名も記されており、一家が八丁堀で暮らしていた証しを静かに刻む。(桑島美帆)

(2022年2月21日朝刊掲載)

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