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社説・コラム

社説 北京冬季五輪閉幕 掲げた理念 かすむ一方

 北京冬季五輪がきのう閉幕した。昨年夏の東京五輪・パラリンピックに続き、新型コロナウイルスが世界に広がる中での開催となった。期間中、ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が国際社会を覆った。感染症と戦争という二つのリスクに脅かされた大会だったと言えよう。

 そもそも中国での「平和の祭典」開催には人権擁護の観点から異論があった。中国政府による香港の自治と民主主義弾圧、新疆ウイグル自治区での人権抑圧などを考えれば、ふさわしい国とは到底言えないからだ。実際、米国をはじめ「外交ボイコット」の動きもあった。

 人間の尊厳に重きを置く平和な社会の推進という、崇高な理念を五輪は掲げている。その在り方が、これまでに増して問われるのも、当然かもしれない。このまま理念をかすませてしまうわけにはいかない。

 日本選手の活躍には目を見張った。獲得したメダルは18個。4年前の前回大会の13個を上回り、冬季五輪では史上最多となった。スキージャンプ個人ノーマルヒルの小林陵侑選手、スノーボード・ハーフパイプの平野歩夢選手、スピードスケート1000メートルの高木美帆選手が、金メダルに輝いた。日頃の鍛錬があったからこそ、最高の舞台で力を発揮できたのだろう。3人の努力をたたえたい。

 宣伝の場にしよう―。そんな中国政府の狙いが随所で表れた大会でもあった。聖火リレーの最終走者には新疆ウイグル自治区の選手を起用した。ウイグル族弾圧が疑われる中、批判をかわしたいのだろうが、人権抑圧を否定するなら、国連などによる調査を受け入れるべきだ。

 中国政府をたしなめる役回りの国際オリンピック委員会(IOC)だが、忖度(そんたく)ぶりが目に余った。女子テニス選手の安否が懸念される問題では、バッハ会長がこの選手と面会したり一緒に観戦したり。選手の無事をアピールしたい中国政府の思惑を後押しする行動を重ねてきた。

 それでも、大会組織委員会の横紙破りには堪忍袋の緒が切れたようだ。IOCが問題視したのは、「台湾は中国の一部だ」「新疆ウイグル自治区での強制労働問題はうそだ」との報道官の発言である。中国政府の主張をそのまま会見で垂れ流すのでは、政治的中立性を保つという五輪憲章に反している。

 ドーピング疑惑が今大会でも持ち上がった。かつて違反隠蔽(いんぺい)や検査データの改ざんといった国家ぐるみの不正が発覚したロシアの選手である。これまでIOCが、ロシアに甘い姿勢で臨んできたため、不正が根絶できなかったのではないか。そんな疑念が拭い切れない。

 今回疑われているのは「要保護者」扱いとなる15歳の選手である。周囲の大人たちを含めて徹底調査が欠かせない。

 五輪が曲がり角にあることは東京、北京大会でより鮮明になった。「選手第一」と言いながら、スポンサーの意に沿って開催日時を決めるなど、商業主義に毒され過ぎてはいないか。

 開催地選びも、多額の費用負担に住民の理解が得られにくくなっている。とはいえ強権国家での開催は、フェアプレーの精神や人権尊重といった五輪憲章に背きかねない。IOCは、こうした難題から目を背けず、抜本改革に乗り出すべきだ。

(2022年2月21日朝刊掲載)

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