×

社説・コラム

NPT会議 延期をプラスに 長崎大・中村桂子准教授に聞く 非人道性の訴え 被爆地に役割

 5年に1度開かれてきた核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年近く延期されている。核軍縮の取り組みを検証する貴重な場が遠のき、軍縮停滞への懸念が広がる。会議に詳しい長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)に、延期の影響や被爆地が果たせる役割を聞いた。(小林可奈)

  ―延期の影響は。
 再検討会議は核兵器の保有国と非保有国がともに核軍縮を話し合い、前進に向けた合意へ共同歩調を取る場だ。対話する機会の先延ばしはマイナスだ。米ロや米中など保有国間の対立も鮮明になる中、核軍縮が停滞している現状を打開する機会が失われているのは良くない。

  ―今後の展望に期待はできませんか。
 プラスの要素も一定にある。例えば、延期中に米国は「使える核」を求めたトランプ政権から「核なき世界」を掲げるバイデン政権に変わった。米国はNPT再検討会議の成否の鍵を握る。会議が予定通り、トランプ政権下の2020年春に開かれていたら、核軍縮の前進や最終文書の合意は難しかったかもしれない。

 また、バイデン政権は近く、新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を策定する。米国がNPRで核軍縮に前向きな姿勢を示せば、最終文書の合意に至る可能性も高まり、会議にとってはプラスに働く。

  ―保有五大国は1月、会議に向けて準備した共同声明で、核戦争回避を「最重要責務」と明記しました。この声明の意図は。
 保有国間の対立が会議の懸念の一つとされる中、足並みをそろえて前向きな姿勢をアピールする狙いだろう。前回15年の会議は中東の非核化などを巡って意見が割れ、決裂した。五大国にだけ保有を認めるNPT体制で決裂が続くのは、五大国にとってもデメリット。「私たちは歩み寄っているから、あなたたちも」と、核兵器禁止条約の制定で勢いを増す非保有国をけん制する意図が透ける。

  ―被爆地の役割は。
 核の非人道性の議論に焦点を当てるため声を上げるべきだ。再検討会議では、各国間の対立など政治的な話が先行し、核の非人道性は二の次にされる。核被害は核実験やウラン採掘などにも及ぶグローバルな問題。さまざまな国が参加する会議でしっかり議論することが、核なき世界に向けた共通認識を形作る。

 核の非人道性を訴えてきた非保有国にとって、被爆者は精神的な支柱であり、主張の根幹だ。会議の最終文書に非人道性を盛り込む議論を促すため、被爆地、被爆者の声が引き続き求められる。

なかむら・けいこ
 1972年、神奈川県生まれ。米モントレー国際大大学院修了。NPO法人ピースデポ事務局長を経て、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)准教授。

(2022年2月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ