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連載・特集

大地覆う放射能の恐怖 米・ニューメキシコ州 ナバホ先住民居留地 健康被害、拡大の一途

ウラン鉱山で劣悪労働 鉱滓流出、川を汚染 閉山後は破棄物放置

 カラフルで複雑に重なり合った地層に奇岩…。ニューメキシコ州アルバカーキから西へ約二百キロ。アリゾナ州にほど近いナバホ先住民居留地のチャーチロックでは、目を楽しませてくれる自然美とは別の、見えない放射能の恐怖が人々を支配していた。

防護マスクなし

 「ほら、ここは見渡す限りウラン採掘で出た廃棄物だ。土で表面すら覆っていない放射能大地だよ」。かつてカーマギー社のウラン鉱山で働いていたカール・カットニーさん(52)は、元の職場跡に立った。一九八五年の閉山まで八年間勤めた最後の労働者の一人である。

 「千八百フィート(五百四十九メートル)の底でウラン鉱石を掘っていた時は、防護マスクすら支給されなかった。ウラン価格が値崩れして閉鎖する時は、汚染されたブルドーザーからシャベルまですべてここに埋めていったよ。ひどいもんさ」

 カーマギー社の鉱山に隣接するようにあったユナイテッド・ニュークリア社。ここでは七九年、ウラン鉱滓(こうさい)をためていたダムが決壊し、放射能を含んだ約三十六万リットルの汚泥がコロラド川支流の近くの川に流れ込んだ。汚染域はアリゾナ、ネバダ州の下流域にまで達した。流出した鉱滓は千百トン。十分な除染作業をせぬまま、同社も八五年に閉山した。

 放射性廃棄物によって地下水は汚染され、空気と周辺の牧草地や農地には、強風によってウラン鉱滓が運ばれた。牛や羊は放射能を含んだ川の水を飲み、草をはむ。先住民の子どもたちにとっては、そんな川や牧草地が遊び場だった。

「400人近く死亡」

 人口約二十五万人、面積は中国地方の約二・二倍の六百八十七万ヘクタール。米国南西部のニューメキシコ、アリゾナ、ユタの三州にまたがるナバホ先住民居留地は、四九年の旧ソ連の原爆実験成功を契機に、にわかにウラン採掘ラッシュが始まった。オーストラリア、南アフリカなどのウラン量産に伴い、価格が暴落する八〇年代後半まで、採掘は続いた。

 現金収入を求めて鉱山で働いたナバホの男たちは、劣悪な作業環境の下、肺がんや呼吸器疾患などで多くが健康を損なった。

 カットニーさんとともに現地を案内してくれた「南西先住民ウラン・フォーラム」のアナ・ロンドンさん(42)は「既に三百五十人から四百人の労働者ががんなどで亡くなっている。夫を失った女性たちがほとんどというコミュニティーもあるのよ」と嘆いた。

 居留地に残ったウラン鉱山跡は千以上もある。百十を数える地域のうち、三分の一以上が放射能の影響を受けているという。それでも、かつての鉱山会社や連邦政府は、放置された大量の放射性廃棄物を除去しようとしない。

先天障害も発生

 「大量破壊兵器の原爆は、戦争後も広島や長崎の被爆者に影響を与え続けている。閉山後のウラン鉱山跡も同じよ。先天性障害を持つ新生児も増えている。低レベルだから影響がないという科学者らには、ここの廃棄物を自分の裏庭に持って帰ってもらいたい」

 ロンドンさんらは今、ウランの採掘禁止をも含む「ナバホ居留地非核地帯」運動に取り組んでいる。(文と写真・田城明)

(2000年5月18日朝刊掲載)

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