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連載・特集

緑地帯 川野祐二 エリザベト音大と歩んで①

 エリザベト音楽大学は、原爆投下により広島が廃虚と化した3年後の1948年、県公認広島音楽学校の創立から始まる。短期大学、四年制大学、大学院(修士・博士)へと発展し、来年2023年には創立75周年を迎える。

 地方都市にあり、日本の八百弱ある大学の中で学生数が最下位に近く、しかも音楽の単科大学で、今までよく存続できたな、と我ながら感心する。少子高齢化で大学経営は冬の時代と言われるので、経営が順調なのは不思議だと思われてもしかたがない。バチカンあるいはイエズス会からの援助があるのでしょう、と指摘された経験もあるが、全くの誤解だ。確かに戦後長きにわたり、キリスト教系の学校は欧米各国からの援助が得られたが、現在は反対に援助する立場である。ぶれない経営理念と先見性のあるイエズス会理事長のおかげで本学は生き残っている。

 東京生まれ、横浜育ちの私がエリザベト音大の名前を知ったのは、同じイエズス会が経営母体である上智大学の学生時代であった。研究テーマは西洋中世修道院文化。指導教授の鈴木宣明神父から、エリザベトの図書館と長束にあるイエズス会修練院への訪問を勧められ、初めて広島を訪れた。

 鈴木神父は修道会の養成の一環として長束修練院で過ごし、創立期の広島学院での教師経験もあった。修練院は私には静寂そのもので、畏怖の念さえ抱く場所であった。まだ音大就職も、修練院の歴史も知らない学生だった。 (かわの・ゆうじ エリザベト音楽大理事長・学長=広島県府中町)

(2022年2月19日朝刊掲載)

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