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広島の被爆者ら歓迎・懸念 核兵器不使用声明への賛同

 政府が核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明に初めて賛同する方針を表明した11日、広島の被爆者たちは「ようやく思いが届いた」と、政府の方針転換を歓迎した。ただ安全保障政策を米国の差し出す「核の傘」に依存する現状との「矛盾」を抱えたまま、国際社会と表向き協調することに懸念の声も出ている。

 「核兵器廃絶を目指すなら、共同声明に賛同せざるをえないのが今の流れだ」。広島県被団協(金子一士理事長)の佐久間邦彦副理事長(68)は政府の方針にひとまず胸をなでおろした。

 佐久間さんは4月、NPT再検討会議の第2回準備委員会に合わせてスイス・ジュネーブを訪問。核兵器の非人道性に焦点を当てて不使用を訴える共同声明に賛同しなかった日本政府に対し、現地で非政府組織(NGO)のメンバーたちと抗議活動をした。「私たちの運動の成果でもある」と喜んだ。

 やはりジュネーブで天野万利軍縮大使(当時)に直接抗議した広島市の松井一実市長。この日、市役所で取材に応じ、「賛同は一歩前進だ。核兵器廃絶を願う多くの人たちの思いを政府が受け止めてくれた」と述べた。

 ただ被爆者は、これまでの賛同見送りであらわになった、場合によっては核兵器使用を認めかねない政府の姿勢を突いた。

 もう一つの県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之事務局長(71)は「国際社会や市民の批判を受けて賛同に踏み切ったのだろうが、文面を見ないと喜べない。『核の傘』に頼り続ける姿勢を根本的に変える覚悟があるか問われる」と言う。

 今回の声明では、核兵器の全面不使用の趣旨は残る方向だが、日本は声明に拘束力がない点を確認し、折り合った。広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)は「声明は核兵器禁止条約を目指す動きの一環だ。日本は小細工せずに、それを視野に動き始めるべきだ」と指摘する。(岡田浩平、田中美千子)

≪核兵器の非人道性を訴える国際社会の動き≫

【2010年】
 4月 赤十字国際委員会のヤコブ・ケレンベルガー総裁がスイス・ジュネーブでの演説で、核兵器使用が非人道的結
    果をもたらすと指摘
 5月 米ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書で非人道性に言及
【11年】
11月 ジュネーブでの国際赤十字・赤新月運動代表者会議で非人道性を訴える決議を採択
【12年】
 5月 オーストリア・ウィーンでのNPT再検討会議の第1回準備委員会で、スイスなど16カ国が非人道性を前面に核
    兵器の非合法化を求める共同声明を発表。日本は賛同しなかった
10月 国連総会でスイスなど34カ国が核兵器の非人道性を訴え、非合法化へ努力を求める共同声明を発表。日本
    は賛同しなかった
【13年】
 3月 ノルウェーがオスロで核兵器の非人道性に関する会議を開き、日本を含む127カ国・地域の代表団が出席
 4月 ジュネーブでのNPT再検討会議第2回準備委員会で南アフリカなど74カ国が核兵器の人道的影響に関する共
    同声明を発表。日本は賛同しなかった

(2013年10月12日朝刊掲載)

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