×

社説・コラム

社説 ウクライナ危機 力で国境変更 許されぬ

 ロシアのプーチン大統領は、親ロシア派組織が実効支配しているウクライナ東部の一部地域について独立を承認した。

 2014年のクリミア半島の併合に続いて、軍事力を背景に一方的に国境を変更する試みといえよう。ウクライナの領土保全や主権をゆがめるもので、国際法違反である。到底容認できない。

 さらに恐れていたシナリオが現実となった。プーチン氏は独立を承認した地域に対し、ロシア軍を派遣するよう国防省に指示したという。平和維持が目的と主張しているが、他国の主権を侵すような軍事行動を正当化できるはずはない。

 国連憲章は、国の領土保全や政治的独立に対する武力行使を禁じている。国際社会は結束してロシアに対する包囲網を強める必要がある。「無法」を許すことがあってはならない。

 ロシアが派兵するのは、ロシア系住民が多い東部ドンバス地域の一部。親ロシア派が14年に「ドネツク共和国」と「ルガンスク人民共和国」を名乗り、一方的に独立を宣言した。ロシアがクリミア半島を強制編入したのとほぼ同じ時期のことだ。以来、8年間にわたってウクライナ政府軍と交戦状態にある。

 今月に入ってからは、ロシアや親ロシア派が「政府軍から攻撃があった」と主張し、占領地域の住民をロシアへ避難させ始めた。ウクライナは「偽ニュース」だと否定し、欧米はロシア側が侵攻の口実をつくろうとしていると警戒を強めていた。

 ロシアが力による現状変更に踏み出したことで、ウクライナ危機は新たな局面に入ったのではないか。

 ウクライナ東部に侵攻したロシア軍の駐留が長期化する可能性がある。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟を何としてでも食い止めるとともに、この地域の「独立」の既成事実化を狙っているのかもしれない。

 政府軍とのにらみ合いが長引けば、偶発的な衝突から戦端が開かれる事態も否定できない。ひとたび武力紛争状態に陥れば、大混乱は欧州だけにとどまらない。各国が知恵を絞り、武力衝突を防ぐ仕組みを整えなければならない。

 米欧などによる対ロ制裁の発動も避けられないだろう。

 先進7カ国(G7)の外相が先週、ドイツで緊急会合を開き、ロシアが侵攻すれば、前例のない経済・金融制裁を科すと警告した。

 ロシアの主力銀行との取引停止や輸出規制、独ロを結ぶ天然ガスパイプラインの稼働停止などが検討されている。対ロ制裁では一歩踏み込んだ形である。大規模な制裁が発動されれば、ロシアも国際社会での評価や信用を落とし、国力を大きく損なうリスクがある。

 米政府高官は、今回のロシア軍の派兵について、実質的に親ロシア派が過去8年間にわたり支配してきた地域として、「新たな侵攻」とみなさない考えを示唆した。ロシアがウクライナへ再侵攻しないことを条件に危機の解決に向けて、首脳間の対話の道も残しているという。

 日本も国際法違反に対して毅然(きぜん)とした態度を取る必要がある。米欧と同調し、プーチン氏に自制を促す外交努力を続けるべきだ。

(2022年2月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ