×

ニュース

被爆イチョウ 強い生命力 東区の明星院で新芽 仏頭を安置 参拝者らに勇気

 真言宗御室派の明星院(広島市東区)の被爆イチョウが参拝者たちの間で話題となっている。原爆投下に耐え、その後の度重なる台風や落雷で枝をすべて失ったが、それでも昨秋に力強く新芽を出した。腐った幹の一部をくりぬき、住職の八木恵生さん(66)が仏頭を安置したところ、「強く生きる姿から勇気をもらえる」などと訪れた人から声が上がっている。(小林旦地)

 推定樹齢は150年、幹回り約3・5メートルの大木。かつては秋に鮮やかな黄葉を見せ、住民たちに長年慕われてきた。だが、今は大きな幹が柱のように残るだけ。「頑張ってよう立ってます」と八木さんはいとおしそうに幹を見上げた。

 このイチョウは幾度も災難を乗り越えてきた。

 原爆投下直後、爆心地から約1・8キロにある明星院は爆風で倒壊し、その後の火災でイチョウも焼けた。その後、樹勢は奇跡的に回復したが1987年、雷の直撃で幹の上部4分の1ほどが裂ける被害に遭い、2004年には9月と10月の台風で直径30センチほどの太い枝が何本も折れた。

 さらに、昨年8月の台風9号による暴風で高く上に伸びていた枝が全て折れた。木の高さは半分ほどになり、太い幹だけが残った。「無残な姿になってしまった。もう枯れてしまうかもしれない」と心配で毎日イチョウの様子を見ていた八木さん。しかし台風から1カ月たった頃、幹から小さな新芽が出ているのを見つけたのだ。

 「よう生きとる。強い木だ」。木を診た樹木医の堀口力さん(76)は感心したという。幹の中心部分は雨水で根元付近まで朽ち、一部が空洞になりながらも、しっかりと立っていた。

 「多くの人にこの木の生命力を知ってもらいたい」。八木さんは腐朽した高さ約3メートルの幹の一部をくりぬき、防腐措置を施した上で、昨年12月に仏頭を安置してしめ縄をくくった。仏頭は、イチョウのそばにある子安観音像をつくった際の原型。その後、手を合わせる人が増えてきたという。

 散歩中、参拝に訪れた近所の50代の女性は「新型コロナウイルス禍だが、力強く生きる姿にパワーをもらえます」。そう言って、イチョウを見つめていた。

(2022年2月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ