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社説・コラム

天風録 『地球からの「逃げ方」?』

 ぐるり気球で一周、頂まで1カ月の登山、氷で覆われた極地探検―。三つのモデル周遊プランを紹介する光文社新書「火星の歩き方」が昨年末に刊行された。人跡未踏の惑星だが、多くのカラー写真や地図が旅情をそそる▲そこには謎の堆積物が広がる平原があり、米グランドキャニオンの10倍規模もの大峡谷があるらしい。オリンポスは2万メートルを超える太陽系の火山最高峰とか。30~40代の惑星研究者3人が大真面目にガイドしてくれる▲雄大なスケール感に圧倒されていると、今度はワニブックスPLUS新書から齋藤潤著「本気で考える火星の住み方」が出た。水が存在するようなので工夫すれば定住できると、こちらも理詰めで説いてある▲この火星本ブーム、今は富豪限定であるものの、宇宙旅行が身近になった表れと言えそう。あるいは温暖化と大災害頻発で暮らしにくくなった地球からの「逃げ方」指南書かもしれない▲極め付きが戦争だろう。とうとうロシアがウクライナに侵攻した。有史以来、争いに明け暮れてきた人類である。他の惑星に移住できたとしても、同じことを繰り返しかねない。その前に「平和な地球の歩き方」を本気で編まなくては。

(2022年2月25日朝刊掲載)

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