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社説・コラム

社説 ウクライナ侵攻 ロシアは即時撤退せよ

 あろうことか、ロシア軍がウクライナに侵攻した。国際社会の度重なる警告を無視した暴挙である。  他国の主権を侵害し、世界の平和と安定を根底から突き崩す明らかな国際法違反であり、言語道断だ。ロシアは即座にウクライナから撤退すべきである。

 ロシアのプーチン大統領は先日、ウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を一方的に承認した。それだけでも主権の侵害なのに、きのうは侵攻を始めた。

 ウクライナ当局によると、首都キエフなど全土の軍事施設がミサイル攻撃を受けている。全面的な侵攻が進んでいるのだろう。放置すれば、影響はウクライナだけでなく、周辺国を含めた欧州全体に広がりかねない。国際社会は結束して、ウクライナの主権を守らねばならない。

 バイデン米大統領は「プーチン氏は破滅的な人命の損失をもたらす戦争を選んだ。世界はロシアの責任を追及する」と憤った。当然である。米国はロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」の運営企業と幹部に科した制裁をさらに強化するという。欧州連合(EU)も制裁を拡大する方針だ。

 ロシアは8年前、ロシア系住民の多い、ウクライナ南部のクリミア半島を強制的に編入し、国連や国際社会の反発を招いた。過ちをなぜ繰り返すのか。

 プーチン氏は、ウクライナを「歴史的、文化的、精神的に不可分のわが固有の領域の一部」と言い切っている。旧ソ連の構成国はロシアの領土とでも言うような態度だ。横暴ぶりが度を越えている。自身を皇帝だとでも思っているのだろうか。

 ウクライナがロシアでなく、EUに接近しようとするのは、プーチン氏の強権ぶりに嫌気が差していたからではないか。クリミアの強制編入でロシアの脅威がなければ、北大西洋条約機構(NATO)加盟を模索することはなかったかもしれない。

 今回の侵攻についてプーチン氏は「目的は人民の保護」と述べた。ロシア系住民を念頭に置いているのだろう。ナチス・ドイツによるチェコスロバキア併合を思い出す。ナチスがズデーテン地方を併合した際、ドイツ系住民の保護を理由にしていたからだ。圧力を強めるナチスに英仏両国が譲歩し、小国チェコスロバキアは解体された。

 ナチスの横暴を食い止めなかったことが、第2次世界大戦につながったのではないか。国際社会がウクライナから目を背けることがあってはならない。

 ロシア系住民が多い国は他にもある。バルト3国は、今回の侵攻を受け、国際的な銀行間決済システムからのロシア排除を提案した。極めて重い制裁案は自国も巻き込まれかねない懸念が拭えないからに違いない。

 プーチン氏は国民の支持を得るため自国に「大国」の看板を掲げたいのだろう。しかしクリミア編入で制裁を受けながら再び侵略に乗り出し、信頼は地に落ちた。今回も「米国と同盟国がレッドラインを越えた」と責任を転嫁するありさまだ。

 強大な軍事力で他国を踏みにじるロシアに対し、日本も厳しい姿勢で臨まなければならない。国際社会と協力して、ロシア国債の日本での発行・流通などを禁じた制裁をさらに強化する必要がある。

(2022年2月25日朝刊掲載)

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