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戦火どこまで 「祈るしか」 ウクライナ侵攻 広島在住の出身者・被爆者たち 「身勝手」 露に批判も

 ロシア軍がウクライナに対する軍事作戦を開始した24日、広島県在住のウクライナ出身者やゆかりの人は悲痛な声を上げた。ロシアのプーチン大統領が核使用の可能性に言及してきた経緯もあり、被爆地の市民にも不安が広まる。被爆者たちは一日も早い外交的解決を訴えた。(田中美千子、江頭香暖、久保田剛)

 「家族が心配。祈るしかできない自分が情けなくて…」。安佐南区の音楽講師ナターリヤ・ホンチャリックさん(47)は涙をこぼした。この日、母国ウクライナ東部に住むいとこのボイスメッセージが届いた。現地では早朝、砲弾のような音が繰り返し聞こえたらしい。声に緊張がにじんでいたという。

 ロシアは2014年、ウクライナ南部のクリミア半島を強制編入。以来、親ロ派とウクライナ政府軍とは交戦状態にある。「私たちは愛国心が強い。志願兵になり、命を落とした友人もいる」とホンチャリックさん。西部の街には高齢の両親も暮らす。「今回は戦火が全土に広がりかねない。どれだけ犠牲が出るか…」と声を震わせる。「身勝手な強国の行為を許せば世界の秩序は壊れる。国際社会の力で止めて」と訴えた。

 ウクライナの学校関係者と交流がある広島文化学園大(安佐南区)の伊藤駿講師(29)もこの日、現地から電子メールを受けた。自宅近くの軍用空港が攻撃され、混乱が広がっているという。伊藤講師は「生徒をどう守るか、戦々恐々としているはず」と案ずる。

 市民も懸念を強める。「戦争の始まりのような胸騒ぎがする」と述べるのは、市の被爆体験伝承者として活動する宇佐美節子さん(80)=安佐南区。「戦争を引き起こすのは無関心。私たちも声を上げないと」

 ウクライナは旧ソ連崩壊後、領内に残っていた核兵器を放棄。代わりに米国、英国、そしてロシアから安全保障の約束を取り付けた経緯がある。広島県被団協の佐久間邦彦理事長(77)は今月、ロシアが核ミサイル部隊を含む大規模な軍事演習を強行したことにも言及。「核使用までちらつかせ、領土を広げようとしている。主権平等をうたう国連憲章に違反している」と批判する。

 もう一つの被団協の箕牧(みまき)智之理事長(79)も「政治家が道を誤る時、犠牲になるのはいつも市民だ。各国の外交力が問われている」と強調した。

 平和首長会議で会長を務める松井一実市長もこの日、ツイッターなどで「決して核兵器を使用することがあってはならない。一日も早い平和的解決に向けた外交努力を」と要請した。

(2022年2月25日朝刊掲載)

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