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連載・特集

緑地帯 川野祐二 エリザベト音大と歩んで⑥

 音大キャンパスはどのような所だと思いますか。本学は広島市中心部にあるので、ご存じの方も多いかもしれません。

 クラシック音楽が学内各所から聴こえる優雅な空間を想像したらそれは大間違い。実際には少し耳障りな部分練習(ごめんなさい)の繰り返しで、演奏会場で聴く音楽からは程遠いのが現実だ。

 演奏実技の個人指導が毎週あり、練習をサボれば教員の前で苦しい時間を過ごさねばならない。演奏は優劣がつき、学生たちはいつも競争にさらされている。学年も関係ない。教員からは𠮟咤(しった)𠮟咤𠮟咤激励が4年間続く。音大は体育会のような厳しさがある、と企業人から言われたこともある。しかしこれこそ、音大生のメンタルを強化する原点なのだ。

 音大には教室よりもレッスン室や練習室の方がはるかに多く、各部屋にグランドかアップライトのピアノが備えてある。学生には存分に練習させたい。コロナ禍でも決して学内入構禁止にしなかったのは学生から歓迎された。自宅や下宿では、楽器や歌唱の練習ができないことがわかっていた。学生一人一人を大人として見守り、育てることが本学の役割である。

 音大では独奏はもちろん、2人以上のアンサンブルも学ぶ。お互いを信頼し、注意深く音を聴き合うことが肝要だ。それはイエズス会教育の特徴である「他者と共にあり、他者のための」存在(音楽家)となる重要なプロセスだ。音楽を通して、他者のために自分ができることを見つけ、それを達成するために各自の能力を十分に発揮してほしい。(エリザベト音楽大理事長・学長=広島県府中町)

(2022年2月26日朝刊掲載)

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