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社説・コラム

[核禁条約 私の国では] コスタリカ カルロス・ウマーニャさん

軍縮への賛成浸透 世界リード

 中米の国コスタリカは軍隊を持たず、対話と外交による平和構築を大切にしている。人口は約510万人で、面積は四国と九州を合わせたほどの小国だが、核兵器禁止条約(TPNW)の採択や発効に向けて世界の先頭に立ってきた。

 2017年に国連で開かれた条約交渉会議への大きなステップとなったのが、オーストリア政府が14年に提案した「人道の誓約」だった。わが国は「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体」の議長として域内に働き掛け、全33カ国の賛同に至った。条約交渉会議で議長を務めたホワイト大使はコスタリカ出身。国民も、軍縮への貢献は国の外交政策の柱、という意識を共有している。

 TPNWへの注目を国内で最初に呼び掛けたのは、市民だった。12年、「原爆の子の像」にささげられた千羽鶴を世界各国に送る活動をしている広島の高校生たちから、チンチージャ大統領(当時)に折り鶴が届いた。私たちはその活動に応えて、国内で条約の実現を訴えた。13年、大統領は「核兵器禁止」に賛同した。

 ただ、国民全体がこの条約に関心を寄せているとはいえず、報道も少ない。地域限定の核兵器禁止条約といえる「ラテンアメリカおよびカリブ地域核兵器禁止(トラテロルコ)条約」が1968年に発効してから、長い時間がたつ。軍縮への賛成はあまりに当然のこと、という感覚がすでに浸透している。

 しかし実際には、核兵器が使われれば国境など関係なく影響を与える。コスタリカを含め、世界中の市民の間で条約への関心を高めていく必要がある。

 私は核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の共同代表と核兵器廃絶国際キャンペーン(I(アイ)CAN(キャン))運営委員を務め、芸術家としても活動している。核兵器廃絶に取り組む原点は、かつて広島の原爆資料館で「市民が描いた原爆の絵」を見たことだ。黒こげに焼けた人々の無残な姿に衝撃を受けた。

 なおも被爆国である日本政府が条約に後ろ向きであることに、多くの国が驚いている。条約の推進は、タマネギの皮をむくようなもの。まずは非核保有国の賛同を広げる。次いで核を直接には持たない「核の傘」の下にいる国々。そして、核保有国という「芯」を動かしていく。市民の力を信じている。(湯浅梨奈)

(2022年2月28日朝刊掲載)

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