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親と離別 旧満州引き揚げ 広島県府中町の松田さんが手記 過酷な体験 つぶさに刻む

開拓団夫妻の助け・父のシベリア抑留…

 2歳だった終戦直後に旧満州(中国東北部)で孤児になった松田信象(のぶたか)さん(78)=広島県府中町=が、開拓団の夫妻に助けられて帰国し、上下町(現府中市)にあった父の実家にたどり着いた自身の体験を手記「満蒙(まんもう)開拓団遺聞」にまとめた。過酷な引き揚げ体験を、聞き取りを基につぶさに記した。

 松田さんは新京(現吉林省長春)生まれ。終戦時、陸軍少尉だった父はソ連兵に連行され、満鉄病院に入院中だった重病の母と一緒にいた。引き揚げ中に同病院に寄った開拓団の団長に、母が松田さんを連れて行ってもらうように頼み込んで息を引き取った。

 開拓団にいた笠原房吉、雅子夫妻が松田さんをわが子のように守り、米国の貨物船に乗って1946年9月に帰国。雅子さんの実家があった長野県内の親戚宅に一緒に身を寄せた。その後、「上下」という珍しい地名と、松田さんの名前から身元が分かり、47年夏に父の実家へ戻った。

 上下町での日々や、別れたままになった笠原夫妻を捜すために東京の大学に進学して再会を果たしたことなども紹介。団長夫妻や笠原夫妻から生前に聞いた話のほか、48年10月に復員した父から聞いたシベリア抑留についても書いている。

 幹事を務める日本退職者協会広島支部の月例会で、昨年6月に概要をスピーチしたところ、多くの参加者から関心が寄せられたのを受け、執筆を決めた。

 「今の私があるのは、明日も分からない殺伐とした中だったのに、苦労して連れ帰ってくれた笠原夫妻や団長のおかげ。二度と戦争をしてはならない」と松田さん。多くの人に冊子を読んでほしい、と願う。A4判26ページ。松田さん☎082(288)2471。(二井理江)

(2022年2月28日朝刊掲載)

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