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連載・特集

緑地帯 ひろしま修学旅行生との20年 中澤晶子 <3>

 「この作文を書いた生徒たちが、2年後、修学旅行で広島に行きます。そのときに会ってもらえませんか」。すべては、横浜市立の中学校で国語を担当するA先生が、1年生の授業の中で私の著作を取り上げたことから始まった。それは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を扱った内容だった。

 やがて、A先生に促された子どもたちは、思い思いに読後感をつづり、ある日、160人分の作文の束がどさりと届いた。書きたい放題、言いたい放題。大人の思惑を完全に外した、いわゆる素のままの作文は、新鮮でパンチがあった。面白い子どもたち! 当時、その中学は、しばしば窓ガラスが割られる学校と聞いていたので、この子たちの広島への修学旅行はどんなだろうという興味もわいた。「修学旅行で会えるといいと思う。おれが広島に出向いてやるんだから、会えなかったらわかってるな」と書いた男子生徒に、会いたい、と思った。

 2年後、3年生になった子どもたちが広島にやってきた。被爆50年、チェルノブイリ原発事故から10年目の5月のことだった。昼間のフィールドワークを終え、風呂上がりの上気した顔の子どもたちが、旅館の大広間を埋めている。もちろん、大騒ぎ。それが収まったころ30分ほど主にチェルノブイリの話をした。向き合った子どもたちの視線は、「わかってるな」と書いた子を含め、驚くほどまっすぐだった。この子たちなら被爆者の証言に素直に入っていけたに違いない。そう思わせる中学生たちと、私はこの町で、たしかに「出会った」と感じていた。(児童文学作家=広島市)

(2015年7月18日朝刊掲載)

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