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核で威嚇 露の背信 ウクライナ侵攻 軍縮・不拡散の妨げに

 ロシアによるウクライナ侵攻は、被爆地と切り離せない問題をはらむ。プーチン大統領は核使用をちらつかせ、全世界を核被害のリスクにさらしている。しかもウクライナは冷戦後、領内に残った核兵器を放棄している。ロシアは代わりに主権を約束したはずだった。今回の裏切り行為は「核放棄は得策でない」との誤った認識を招きかねず、決して見過ごせない。(編集委員・田中美千子)

 「ロシアは核保有国の一つ。攻撃すれば不幸な結果になる」。侵攻に踏み切った2月24日、プーチン氏は核戦力を前面に出し、脅しをかけた。27日には、軍の核戦力部隊に高度な警戒態勢への移行を指示。初の停戦交渉を前に、ウクライナや西側諸国へのけん制を強めた。

 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA、長崎市)は緊急声明で、核使用のリスクに加え、原発事故の危険性も高まったと指摘している。ウクライナは原発への電力依存度が高く、原子炉15基が稼働中。戦時に安全性は担保できない。

 現にロシアはウクライナ北部のチェルノブイリ原発を制圧したとされる。1986年に爆発事故が起き、稼働していないが、使用済み核燃料を保管してある。ロシアがウクライナの核武装を警戒した、との見方もある。

 そのウクライナのドミトロ・クレバ外相が22日、米国のテレビ番組に出演し、こう述べた。「過去に戻ることはできない。が、米国やロシアがウクライナの核兵器を奪わなければ、私たちはより賢明な決定を見いだせたはずだ」。クレバ氏がここで持ち出したのは、90年代の出来事だ。

 ウクライナは91年、崩壊寸前の旧ソ連から独立。領土には、世界第3位規模に当たる数千発の核兵器が残った。ウクライナはその全てを手放し、代わりに安全保障を要求。米国、英国、そしてロシアが合意し、94年に覚書を交わしたのだ。

 ところがロシアは2014年、ウクライナ南部のクリミアを強制編入。さらに今回の侵攻に踏み切った。専門家は、この背信が世界の核軍縮・不拡散に負の影響を与えるとみる。

 RECNAの中村桂子准教授は「『核放棄がこの侵略を招いた』との誤った認識は危険。北朝鮮などが核への依存度を高める引き金になる」と案ずる。折しも安倍晋三元首相が米国の核兵器を日本に配備し、共同運用する道を議論すべきだとの持論を打ち上げたばかりだ。

 オランダ、ドイツなど欧州5カ国には今も、米国が旧ソ連を念頭に配した核兵器約100発が残る。「問題の根底に核を巡る米ロ対立があることを忘れてはならない」と中村氏。「核による脅し合いは地域を不安定化させ、現に意図的でも偶発的でも核が使われかねない現状を招いている」とし、核軍縮の訴えを一層強めていく必要性を唱える。

(2022年3月1日朝刊掲載)

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