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社説・コラム

孤立化 冷戦思考の暴挙 広島市立大平和研 水本和実教授に聞く

 ロシアのウクライナ侵攻後、核軍縮・不拡散の流れがさらに停滞する恐れが出ている。プーチン大統領は自国の核戦力を「高度の警戒態勢」に置くよう指示。安倍晋三元首相も米国の核兵器を日本国内に配備し、共同運用する議論の必要性について言及した。被爆地はどう受け止めるべきか―。核軍縮が専門の広島市立大広島平和研究所の水本和実教授に聞いた。(編集委員・東海右佐衛門直柄)

  ―ウクライナ侵攻の背景をどう分析していますか。
 冷戦思考から抜け出せないプーチン大統領の暴挙だ。ベルリンの壁の崩壊後に冷戦は終わった、と受け止められてきた。しかしプーチン大統領には、西側と旧東欧諸国の垣根がなくなって同盟国が減り、外堀がどんどん埋められ、ロシアだけが取り残されて北大西洋条約機構(NATO)の脅威にさらされていると映っているのだろう。

  ―プーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせています。本当に使われる危険性はありますか。
 冷戦中と比べて核兵器の数は減ったが、その一方で小型化・近代化が進み、核を使う敷居も下がっている。現段階では主にウクライナ東部での武力衝突だが、同国全土に広がった場合、互いの軍事行動はさらにエスカレートする。たとえば相手のミサイル発射に対し、過剰反応して核兵器が使われるリスクはある。

  ―ウクライナ問題後、核抑止を肯定する考え方が世界に広がっているように見えます。
 核兵器はそもそも非人道的だ。安倍元首相が言及した「核共有」政策は本来、核兵器を同盟国と共有し、減らすことを目指す考え方を指すが、間違った文脈での呼び掛けになっており危険だ。今後、核拡散防止条約(NPT)再検討会議も漂流しかねない。

  ―被爆地はウクライナ問題にどう向き合うべきですか。
 例えばNATOに対し、ロシアと平和条約を結ぶよう働き掛けることも一案だ。もともと旧ソ連に対抗する軍事同盟のNATOにそんな提案をするなんて荒唐無稽だと思われるかもしれない。だが欧州とロシアの平和という「着地点」から逆算し、その実現へ向けて障害を取り除くよう、市民社会が訴え続けることは重要だ。

みずもと・かずみ
 1957年、広島市中区生まれ。東京大法学部卒。米タフツ大フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。朝日新聞ロサンゼルス支局長などを経て98年4月に広島市立大広島平和研究所准教授。2010年4月に教授。同年10月~19年3月に副所長を務めた。専門は核軍縮と安全保障。

(2022年3月1日朝刊掲載)

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