×

連載・特集

知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態 第4部 同盟国の重荷 英国 <3> 先天性障害 子へ影響するとは… 脳・内臓・足に異常

 スコットランドの首都エディンバラ市を抜け、西北へさらに五十キロ。人口二千人のクラックマナン市に住むケネス・ダンカンさん(31)の市営住宅に着くと、日はとっぷりと暮れていた。

  自分で服着られぬ

 「遅いので心配したけど、私たちなら時間は大丈夫。あすは日曜だから」。地元の小さな運送会社でトラックの運転手を務めるダンカンさんは、強いスコットランドなまりでこちらを安心させるように言った。

 妻のマンディーさん(32)、父と同じ名前をもらった長男のケネスちゃん(5つ)、二男のアンドリューちゃん(4つ)、長女のヘザーちゃん(2つ)も居間で迎えてくれた。

 「ケネスは統合運動障害という脳の病気のために、自分で食事をしたり、服を着たりできないの」。ほかにも、両足の指が折り重なって痛みを伴うため、二年前に手術を受けた。

 ベッドに行こうとせず、飛行機の模型や戦車、トラックなどのおもちゃで無心に遊ぶ子どもたち。ケネスちゃんの足は、術後もなお指の重なりが残っていた。

 「一年七カ月後に生まれたアンドリューも、腸やぼうこうが正常に機能していないんだ。ぜんそくもあるし…」。ダンカンさんはそう言って二男を見やった。トイレ訓練を始めて分かった。腸の働きが弱いうえ、ぼうこうのコントロールが利かず、おむつがはずせない。

 ヘザーちゃんは左耳がやや難聴で、尿に血液が混じるという。

 夫妻が、子どもの先天性異常とダンカンさんの湾岸戦争体験を結びつけて考えるようになったのは、二男の異常に気づいた三年ほど前のことだ。

 尿の検査でも検出

 十六歳で陸軍に入隊したダンカンさんは、一九九一年の湾岸戦争ではトレーラーで戦車などの武器を前線近くまで運んだ。戦時や戦後は、劣化ウラン弾で破壊されたイラクの戦車から自軍の兵器、機材までサウジアラビアの港まで運搬。六月まで滞在して後始末をした。

 中東から帰還した直後から、気管支の異常や関節の痛みが徐々に始まった。同じ基地に勤務していたマンディーさんと、除隊三カ月後の九三年五月に結婚し、ダンカンさんの故郷クラックマナンへ。慢性疲労に悩まされながら運送会社に勤めた。

 「自分の体調異変は湾岸戦争が原因だと思っていたよ。カナダの核化学者に調べてもらった尿検査でも劣化ウランが検出された。でも、まさかそれが子どもにまで影響するなんて考えてもいなかった」

 将来へ高まる不安

 夫の言葉にうなずきながらマンディーさんが言葉を継いだ。「でもね、今から思うと結婚当初からおかしかったのよ。セックスのたびに私は下腹部に燃えるような痛みを覚えて…」

 最近になり、同じような体験者をインターネットで知ったというマンディーさん。米国での湾岸戦争退役兵の取材で、何組ものカップルから聞いた話である。

 九五年、ダンカンさんの勤務先の会社が倒産して家のローンが払えなくなり、市営住宅に移った。現在の運送会社では以前のように全国は走らず、近郊回りだけをしている。

 「給与と戦争年金を合わせても月額千五百ポンド(約二十四万七千五百円)程度。今はぎりぎりの生活ができているけど、自分の健康や子どものことを考えると、将来が不安でね」

 ダンカンさんもマンディーさんも、兵士として「国に奉仕」することに誇りと生きがいを感じてきた。しかし、障害を持つわが子の原因を知るにつけ、「国への失望と怒りがこみ上げてくる」と口をそろえる。

 「結局、われわれは消耗品でしかなかったのだ」。ダンカンさんの言葉が、米国の湾岸退役兵の言葉と重なり合った。

(2000年6月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ