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社説 臨時国会 強引な審議は許されぬ

 例年以上に「秋の論戦」の意味合いは重い。きのう臨時国会が召集され、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。

 参院選で衆参のねじれが解消して初の本格論戦となる。「成長戦略実行国会」をうたう首相は、長期安定政権へのステップとも位置付けているはずだ。

 ただ国会の閉会中に内外の情勢は大きく動いた。来年4月の消費税の8%へのアップが決定し、福島第1原発の汚染水問題は深刻化するばかりだ。環太平洋連携協定(TPP)の交渉もヤマ場を迎えている。

 こうした重要懸案と向き合う安倍政権の姿勢も当然、問われることになる。

 その点、首相の所信表明はどうだったか。確かに経済再生への意欲は伝わってくる。

 演説のほぼ3分の1を成長戦略の説明に費やした。企業の集中投資を促す税制改革や規制緩和などに加え、雇用確保や賃上げに向けた政労使の連携を訴えたのは「企業優先だ」との政権批判にも配慮したのだろう。

 だが演説全体でみれば、踏み込み不足は否めない。悩みに悩んだはずの消費増税には、少し触れただけだ。国際社会の懸念が強い原発事故の処理についても「全力でやり抜く」などと、決意表明の域を出ていない。

 また「積極的平和主義」という言葉を強調する一方、悪化したままの中国や韓国との関係をどう打開するかに言及しなかったのはいかがなものか。

 難局から逃げる姿勢なら、首相として許されない。この臨時国会においても、誠実かつ丁寧に答弁する責務がある。

 もとより今国会は重要法案がめじろ押しだ。首相肝いりの成長戦略に関しては企業に設備投資や再編を促す「産業競争力強化法案」などが提出される。

 増税とリンクする社会保障制度では、介護保険見直しなどを含めて改革工程を示すプログラム法案も用意された。さらには危機管理の司令塔を担う日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設関連法案など前国会からの積み残しも少なくない。

 いずれも政府・与党は臨時国会で成立を図る意向だが、多くで野党の異論がある。12月6日までの窮屈な日程で審議が尽くせるのか。状況によって会期延長も必要だろう。少なくとも数に頼った強行採決は論外だ。

 特に気掛かりなのは、外交機密などを漏らした罰則を大幅強化する「特定秘密保護法案」の提出も予定されることだ。国民の知る権利を侵害する恐れがある重要な問題であり、現に与党公明党にも慎重論がある。

 自民党側は特別委員会を置いて、NSC関連とともに審議を急ぎたいという。もし拙速に前に進めるようなら将来に禍根を残す。ここは提出自体を見合わせるべきではないのか。

 特別委というならTPPの方が先だろう。交渉をめぐる情報が国会に十分に届かないまま、コメなど重要5項目の関税撤廃をなし崩し的に認めていく方向になりそうだ。所信表明で、首相は年内妥結への意欲をあらためて示した。ならば臨時国会で徹底議論するしかない。

 参院選の後、元気がない野党側の力量が問われる。いまだ内部のごたごたが収まらない党もある。政策本位で安倍政権に向き合い、本来のチェック機能を果たしてもらいたい。

(2013年10月16日朝刊掲載)

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