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繰り返される核保有発言 過去の首脳らも言及 福田康氏「三原則 変えようとなる」/麻生氏「一つの考え」

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器使用をほのめかして国際社会の批判を浴びる中、安倍晋三元首相(山口4区)は日本の領土内に米国の核兵器を置き、共同運用する「核共有」政策を議論すべきだとの考えを示した。被爆国の基本政策「非核三原則」に反する核保有・核武装論はこれまでも時の首相や野党幹部、政府高官から繰り返されてきた。(樋口浩二、口元惇矢)

 「核は保有しない、製造もしない、持ち込まないという三原則。平和憲法の下に日本の安全はどうしたらいいか、これが私に課せられた責任だ」。1967年12月の衆院予算委員会。当時首相の佐藤栄作氏は沖縄県の在日米軍基地への核持ち込みに関し、こう述べた。71年の衆院決議を経て日本の「国是」となる。

 そんな佐藤氏も65年の日米首脳会談では「(前年に初の核実験をした)中国が核兵器を持つならば日本も持つべきだ」と話していた。米国による広島、長崎への原爆投下からまだ20年。被爆者たちを憤らせる発言は、さかのぼると57年の国会答弁でもあった。

 時の首相は岸信介氏。「自衛の範囲内を超えない限り、核を保有しても違憲ではない」と訴えた。こうした身勝手な憲法解釈は自民党の「タカ派」議員に引き継がれている節がある。

 岸氏の孫に当たる安倍氏は官房副長官時代の2002年「憲法上は原爆でも小型であれば問題はない」と主張。北朝鮮が核実験をした06年は自民党政調会長の中川昭一氏が核保有に肯定的な姿勢を示し、外相の麻生太郎氏も議論を求めた。

 危うい言葉は野党からも。02年に自由党党首だった小沢一郎氏は「日本がその気になったら一朝にして何千発も保有できる」、12年は日本維新の会代表の石原慎太郎氏が「核兵器に関するシミュレーションぐらいしたらいい」と語った。両氏は元自民党議員だった。

 あらためて物議を醸す安倍氏の発言。首相在任時の15年8月、広島原爆の式典あいさつで歴代首相が言及していた非核三原則に触れなかった。翌16年には安倍官邸との距離が近い内閣法制局長官の横畠裕介氏が「憲法上、核兵器使用が禁止されているとは考えていない」と国会で答弁した。

 「核なき世界」を掲げる岸田文雄首相(広島1区)は非核三原則の堅持を訴える。だが自民党内には温度差がある。福田達夫総務会長は1日の記者会見で「国民や国家を守るのであれば、どんな議論も避けてはいけない」と、安倍氏の核共有政策に理解を示した。

 首相を務めた父康夫氏は官房長官時代の02年、報道陣との懇談で語った。「憲法も改正しようというぐらいになっているから、非核三原則も変えようとなるかもしれない」

危険性の認識不足

明治学院大の高原孝生教授(国際政治学)の話
 核保有論を唱える人たちは、核兵器の持つ危険性に対する認識が不足している。そのため、他国が核武装などをした際、安易に「同等の兵器で対抗しなくてはいけない」との考えにとらわれてしまう。そもそも、被爆の実態を知らないという問題もある。原爆投下後の広島、長崎の惨状を学べば、核兵器の恐ろしさが分かり、厳粛な気持ちになるはずだ。いま必要なのは核保有ではなく、核戦力、核戦争の廃絶だ。

(2022年3月2日朝刊掲載)

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