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社説・コラム

社説 対ロシア経済制裁 日本も積極的に役割を

 ロシアのウクライナ侵攻を巡り、日本や米国、欧州連合(EU)などは国際銀行間通信協会(SWIFT)と呼ばれる国際決済網からロシアの7銀行を排除することを決めた。ロシア中央銀行との取引も制限し、ロシアが通貨ルーブルに為替介入することも封じる構えだ。

 国際社会が足並みをそろえて金融決済からロシアを締め出す効果は大きい。外貨獲得を原油や天然ガス、小麦の輸出に頼っているロシアが窮地に陥るのは間違いないだろう。

 ロシア批判は日増しに強まっている。岸田文雄首相がきのうの参院予算委員会で、侵攻を厳しく批判し「断固として行動する」と強調したのも当然だ。

 ウクライナ侵攻は誤りであり、即時撤退しか道はない―。そうロシアに思い知らせるために、国際社会は一致して厳しい経済制裁で臨む必要がある。

 SWIFTは200以上の国・地域の銀行1万1千社が利用する巨大ネットワークだ。海外との金融決済に欠かせないデータを1日4千万件以上やりとりしており、今後すべての銀行が排除対象になれば他国との取引は完全に不可能になる。

 ロシアのプーチン大統領は平静を装ってはいる。しかし急落したルーブル防衛のため政策金利を9・5%から20%に一気に引き上げざるを得なくなった。ロシア経済に波紋が広がっているのは明らかだ。

 ただ、おとといの先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、制裁対象からロシア最大手やエネルギー関係の銀行は外された。当初は慎重な姿勢を見せていたドイツやイタリアに配慮したのかもしれないが、物足りなさは否めない。

 ロシアの対応次第では対象の銀行をさらに広げる必要があろう。資産凍結の対象もプーチン氏ら政権幹部以外にも拡大すべきだ。中国・人民元や金による決済が「抜け道」にならないような対策も欠かせない。

 一方で影響はロシアに制裁を科した国にも及ぶ。ロシアからの原油や天然ガス、小麦の供給が止まれば、世界中で資源や食料の価格高騰が起きかねない。すでに原油の先物価格は8年半ぶりの高値水準まで急騰し、小麦の価格もはね上がっている。

 私たちの周囲にもしわ寄せは迫る。広島ガスは天然ガス確保について「今のところ滞っていない」とするが先行きは不透明だ。広島県内のカキ養殖業者はロシアへの生食用の出荷を止めた。エネルギー資源の多くをロシアに依存する欧州ほどではないにしても、国内経済への悪影響は避けられまい。

 それでも政府には毅然とした対応が求められる。

 2014年にロシアがクリミア半島を強制編入した際、当時の安倍晋三政権は欧米に比べて緩い制裁にとどめた。北方領土交渉の進展を期待したかもしれないが、ロシア寄りの物欲しげな姿勢が今回の侵攻を許す遠因になったとも指摘されている。

 そもそも自国の利益のみを重視し、国際協調から一歩引いた態度では、平和国家としての姿勢も問われかねない。

 ロシアの今回の暴挙は決して許されるものではない。岸田首相は人権や法の支配を尊重する日本の立場を鮮明にし、ロシアへの経済制裁でも積極的な役割を果たすべきだ。

(2022年3月3日朝刊掲載)

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