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社説・コラム

『記者縦横』 露侵攻 連帯の力示そう

■ヒロシマ平和メディアセンター 湯浅梨奈

 犬のぬいぐるみを抱いて、笑顔を向けてくれた少年の写真を何度も見返している。大学院生だった3年前、ウクライナの首都キエフでカメラに収めた。ロシアが軍事侵攻した今は、ニュースで現地市民の犠牲を知るたびに、胸が痛む。

 チェルノブイリ原発事故の被災者に話を聞く機会があり渡航した。放射線の影響で家族が亡くなった、と証言された。つらい歴史がある一方で、景色はどこを見渡しても美しい。人は優しく、街は穏やかだった。

 それが一変してしまった。ロシアのプーチン大統領は、核兵器による威嚇をエスカレートさせ、世界を恐怖にさらしている。正直なところ、一度は原爆平和報道の担当記者として無力さを感じた。原爆被害で今も苦しむ人々の声を発信しているのに、世界にどこまで伝わっているのか、と。

 しかし「決して諦めてはいけない」と確信した。先月、コスタリカで核兵器禁止条約を推し進めるカルロス・ウマーニャさん(47)を取材した時のこと。「核兵器禁止」に正式賛同するよう大統領を後押ししたのが、広島の高校生から届いた「原爆の子の像」の千羽鶴だったと教えてくれた。その後コスタリカは、条約実現の主導国となった。

 ウマーニャさんは「一人で世界は変えられないが、一人一人の力が合わされば世界に影響を与えることができる」と話す。ツイッター上では「戦争やめろ」との世界中からの呼び掛けが飛び交う。市民の連帯は何よりも強い。まずは声を上げ、できることを考え、行動する必要がある。

(2022年3月4日朝刊掲載)

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