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社説・コラム

ハンセン病問題 教育界の責任は 福山・盈進中高校長らが出版 聞き取り・文献調査で探る

 ハンセン病市民学会教育部会編「ハンセン病問題から学び、伝える」=写真=が清水書院から出版された。執筆陣が取材したハンセン病回復者の人物像を「出会いと証言」と題して随所に織り込みながら、誤った日本の隔離政策を巡って教育が果たした負の役割とは何かを解き明かしている。学校の人権学習に資する資料を余すところなくまとめている点も特徴だ。

 国に賠償を命じた2019年のハンセン病家族訴訟熊本地裁判決は、人権啓発を怠った教育の責任にあらためて触れた。本書は盈進中高(福山市)校長の延和聰(のぶ・かずとし)さんら教員4人が編著者。05年に発足した教育部会の活動として編さんが進められ、書名も「ハンセン病問題から学ぶ」として教育界の責任を明確にする意味合いを込めたという。

 編著者らは回復者への聞き取りや文献調査によって教育界の過ちを具体的に指摘している。例えば療養所に送られた教え子に手紙や面会で接しようとした教員は皆無だったという。1955年に国立療養所長島愛生園(瀬戸内市)で邑久高新良田(にいらだ)教室ができるまでは高校進学もできなかったが、教室の開設は当事者の運動の成果であって教育行政の判断ではなかった。偏見を助長するような保健体育指導書などの記述は70年代になっても引き継がれていた。

 「ハンセン病問題の授業づくりQ&A」と題した章は「どうして指が曲がってしまったの?」という問いから「これから療養所はどうなっていくの?」という問いまで15項目を解説している。誤った隔離政策によって人生と家族、故郷までも奪われた人たちが司法の場で「人間回復」を果たすまでの道筋をたどりながら、ハンセン病問題基本法(2009年施行)に基づく「地域に開かれた療養所」の理念も紹介している。

 愛生園で盲目の療友とハーモニカ楽団「青い鳥」を創設した近藤宏一さんら16人が登場するコラムも読ませる。「ハンセン病問題から学ぶ」ことは「人としての生き方を学ぶ」ことでもあろう。療養所での出会いは子どもたちや若者にとって最良の学びであって、偏見を克服する道であると本書は訴えている。

 A5判360ページ、2530円。年表や法令集も付記している。(特別論説委員・佐田尾信作)

(2022年3月4日朝刊掲載)

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