×

社説・コラム

社説 北京パラ開幕 平和の理念に立ち返れ

 北京冬季パラリンピックの開会式が、きょう行われる。障害者アスリートたちが雪上と氷上の6競技78種目で競い合う姿を世界に発信し、本来なら祝祭ムードにあふれる平和の祭典である。しかし今回はかつてない混乱の下で、開幕を迎える。言うまでもなくロシアのウクライナ侵攻のためだ。

 五輪・パラリンピックの会期中と前後の休戦を求めた国連決議に、明白に反する暴挙だ。国際パラリンピック委員会(IPC)はきのう、ロシアと支援国ベラルーシの選手団の参加を認めないことを発表した。

 国名や国旗を使わない中立の個人資格なら両国選手の出場を容認した前日の決定を、一転して覆した。ロシア軍の侵攻で苦境に立つウクライナはもちろん、米欧のパラスポーツ関係者がIPCの方針に一斉に猛反発したのを踏まえたのだろう。

 2月の北京五輪でも疑惑が指摘されたドーピング行為で、ただでさえロシアは五輪・パラリンピックに国としては参加できない。「国ではなく中立なら」では処分として軽すぎる、という受け止めは当然かもしれない。ロシアの軍事行動によって五輪休戦決議がほごにされたのは、これで3度目である。

 仮に両国の選手が出場した場合、ボイコットや対戦拒否などで大会運営が根底から揺らぐことは容易に想像できた。そうした事態は回避できそうだ。

 開幕直前のどたばた劇は、ロシアが引き起こしたスポーツ界の混乱を象徴していよう。五輪を統括する国際オリンピック委員会(IOC)はロシアを非難し、ロシアとベラルーシの国際大会からの除外を全国際競技連盟に勧告したものの、競技によって対応の差が生じている。IPCの方針転換で締め出しの流れが強まるかもしれない。

 むろんロシアの個々の選手とプーチン大統領による侵略行為は直接の関係はない。今回、北京入りしながら参加できないパラリンピック選手たちの無念は分かる。とはいえ国際社会が特定の国の行為と向き合うのに、スポーツも決して無縁ではなかった。過去にはアパルトヘイト(人種隔離政策)に固執した南アフリカが五輪から長く排除された歴史もある。

 今こそ原点に立ち返りたい。困難への挑戦を通じ、障害のある人たちへの見方を変える。平和な共生社会の実現を促す…。パラリンピックの理念を、あらためて思い起こしたい。

 日本からは4競技に29選手が出場する。アルペンスキー女子座位でメダルラッシュが期待される主将の村岡桃佳選手をはじめ、選手たちの健闘にエールを送りたい。厳しい状況でも参加し、祖国を勇気づけるはずのウクライナを含めた世界のアスリートたちにも。スポーツと平和の意味を、私たちも一緒に考えなければならない。

 そのためにはウクライナ侵攻への選手や役員の意思表示も意味を持つ。開催国中国がロシアに友好的だけに、あるいは大会の組織委員会の側は抑止に回るかもしれない。発言やパフォーマンスの自由は、できる限り尊重してもらいたい。

 最後に言う。パラリンピックの理念をこれ以上、形骸化させないためにも、プーチン大統領は国連の決議を守り、今すぐ停戦に踏み切るべきだ。

(2022年3月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ