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連載・特集

広島世界平和ミッション 旅を終えて <1> 実相を伝える 相手の痛み知る大切さ

 被爆の実態と「平和と和解」のメッセージを伝える広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)は、昨年三月に第一陣を南アフリカ共和国、イランに派遣以来、今年五月の米国派遣終了までに計六陣を核保有国など十三カ国に送り出した。メンバーは八十歳の被爆者から十八歳の大学生まで二十九人。中国新聞の記者とカメラマンも同行し、現地での交流の様子を紙面などで伝えた。一年余に及んだミッションを終えるにあたり、あらためて旅を振り返り、記者の目を通して見た核状況や「ヒロシマ」をめぐる世界の現実と課題を踏まえ、被爆地や被爆国の今後の役割について考える。(平和ミッション取材班)

 「やっぱり顔を見ながら話すのが一番じゃね」。核保有国、非核保有国を問わず、被爆者らメンバーは「ヒロシマ」を伝えながら、こう実感を漏らした。

 どうすれば相手に一番よく原爆被害の実態を伝えることができるか。各陣のメンバーは出発前に訪問国について学び、原爆被害を示す写真ポスターやCD―ROM、約三十分の被爆ドキュメンタリービデオ、ミッションについて説明した配布ビラなどを持参した。

手応え実感■

 交流時間が十分あるところではビデオを上映した後に被爆証言。そしてメンバー一人一人がそれぞれの立場から平和へのメッセージを伝えた。

 もっとも話す相手も、話す場も交流時間もまちまち。臨機応変に対応するしかなかった。

 交流相手のほとんどは、初めて原爆被害に触れる人たちばかり。小学生から大人まで、一発の原爆がもたらした廃虚の街並みや、顔などにひどいやけどを負った被爆者の映像や写真に強い反応を示した。

 視覚に訴えながら、さらに被爆者が直接体験を語り、核廃絶への思いや不戦の願いを訴えるほど相手の心に響くものはないだろう。南アやインド、パキスタン、フランスやスペイン、ロシアや米国でも同じような反響があった。

 「核兵器は政治の手段。使われた時のきのこ雲の下のことまで考えていなかった」。印パの学生をはじめ、核保有国の若者らのこんな言葉に「伝える」ことの確かな手応えを感じたものだ。

 直接の交流の魅力は、たとえ短い時間にせよ互いに人間としての触れ合いが生まれるところにある。イランでの活動には随分と制約がついた。核問題には特に敏感だ。が、一行全員が初めてこの国を訪問し交流することで、ブッシュ米政権から「悪の枢軸」とレッテルを張られた人たちの温かい人柄をも知ることができた。

 同じような経験は、程度の差はあれどの国でもメンバーが味わったことだ。国家レベルで対立しておればなおのこと、民間レベルでの交流が重要さを増す。

学んだ教訓■

 一連の旅は「伝える」と同時に「学び」の旅でもあった。中国や韓国での旧日本軍による被害の実態、イランの毒ガス被害者、米国やスペインのテロ被害者、ロシアやウクライナの被曝(ひばく)者、ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦の犠牲者、アフガン難民、米退役軍人らの劣化ウラン被曝…。

 いずれも戦争やテロ、核開発によって生まれた被害者である。「このような被害者に向き合うときは、まず彼らの苦しみや痛みに耳を傾けよう。でなければヒロシマも伝わらない」。私たちが各地を行脚して学んだ教訓でもある。こうした問題に常に関心を向けながら、ヒロシマを伝える努力が求められている。

 ただ、いつも「顔を見ながら」話せるとは限らない。その場合でも、これまでに築いたさまざまなチャンネルを通じて視聴覚教材を送ったり、インターネットなどを通じて被爆地の発信力強化が求められている。

(2005年6月27日朝刊掲載)

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