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社説・コラム

非人道行為 断固許さぬ 編集委員 東海右佐衛門直柄

 きなくささを増すウクライナ情勢が、いよいよ予測不能の危険域に入った。ロシア軍は4日、ウクライナ南部の原発を攻撃した。稼働中の原発を攻撃対象としたこと自体が前代未聞である。核被害が出ることも辞さずして砲撃したのなら、危険極まりない。「核と人類は共存できない」。被爆地・広島はそう訴え続けてきた。核被害の非人道性を無視し、核兵器で脅し続けるロシアの蛮行は断じて許されない。

 そもそもジュネーブ条約第1追加議定書で原発への攻撃は禁止されている。今回の砲撃は主要施設には影響していないもようだが、もし電気系統などが破壊されていたら、東京電力福島第1原発事故のように炉心溶融(メルトダウン)となった恐れもあった。

 旧ソ連時代に稼働し始めた今回のような原発は耐久設計が十分でないことが知られる。ミサイルなどが直撃すれば制御不能となる可能性がある。プーチン政権は当然、これらのリスクを知っていただろう。

 それでも攻撃したのはなぜか。数発が付近に着弾したとされ、意図的な攻撃に違いない。原子炉が損傷しない場所をあえて狙い、世界を威嚇したかったのではないか。ロシアは、チェルノブイリ原発も制圧している。つまりは、放射性物質を「人質」に国際社会を脅しにかかったといえる。

 ウクライナ政府を降伏させるため、どんな手段も使う―。そう宣言した形だ。

 「常軌を逸した行為だ」。長崎大核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎副センター長(70)は憤る。ロシアは、既に核兵器の運用部隊を戦闘警戒態勢にしている。またこれまでに、非人道兵器であり禁止条約が制定されたクラスター(集束)弾も使ったとの報道がある。鈴木副センター長は「今後、小型の核兵器を無人地帯で使い、威嚇する恐れもある」と警戒する。

 緊迫感が高まる中でも、国際社会は冷静さを保ちたい。力に力で対抗しては悲劇しか生まない。停戦交渉は続いており、外交努力で紛争終結へ導きたい。紛争時の原発リスクと対処法についても国際的な議論が要る。

 被爆地の役割は重い。被爆者はこれまで核兵器廃絶を訴え「他の誰にも悲惨な体験をさせてはならない」と伝えてきた。後障害に苦しむ、チェルノブイリ、マーシャル諸島など各地の核被害者と連帯してきた。

 今回を踏まえ、放射線被害は極めて非人道的であると訴えを強めたい。過去の悲劇から学ぶ人類の責務をさらに広める必要がある。

(2022年3月5日朝刊掲載)

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