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ヒロシマ 怒りと懸念 露がウクライナ原発に砲撃 「絶対に許されない」

 ウクライナに侵攻したロシア軍が、ついに原発をも標的にした。同国最大のザポロジエ原発への砲撃は、戦争による新たな核被害者を生みかねない事態。被爆地広島では、被爆者から怒りや懸念の声が上がり、中国地方の原発立地地域などの住民も不安を口にした。 (明知隼二、小林可奈、山本祐司、寺本菜摘)

 ザポロジエ原発の原子炉は6基あり、一部が運転中だった。県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(79)は「常軌を逸している。原発が破壊されればロシアを含む欧州全体が汚染される可能性もあり、被害を受けるのは市民や子どもだ。絶対に許されない」と憤る。

 「これまでの侵攻も許せないが、原発を狙ったことは本当に許せない」。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(77)も怒りをあらわにする。「放射線被害に苦しみ、自分の家に住めなくなる人を再び出さないよう、侵攻をやめさせなくてはならない」と訴えた。

 かつてウクライナを訪れた被爆者は、交流した市民を心配し心を痛める。森下弘さん(91)=広島市佐伯区=は2004年、原爆被害などを伝える「広島世界平和ミッション」でハリコフなどを訪ねて大学生たちに被爆証言をし、チェルノブイリ原発事故の被災者とは同じ「ヒバクシャ」として苦しみを分かち合った。

 恐怖にさらされる市民の現状を伝える報道に気をもみ続ける。「核は長期にわたり人体や経済に影響を与え、生活を狂わせる。広島の惨状を再び起こしてたまるか。もうやめてくれ」。柔和な顔に怒りをにじませ、一刻も早い停戦を求めた。

 「計り知れない苦しみをもたらす被ばくの実態を分かっていない。私たち被爆者の長年の訴えが届いていないのか」。李鍾根(イ・ジョングン)さん(93)=安佐南区=は、怒りと悔しさがない交ぜになった心境を吐露した。

 非政府組織(NGO)ピースボート(東京)の船旅で12年に同国を訪れ、チェルノブイリ原発や周辺の立ち入り制限区域を視察。事故から26年を経ても住民の生活や健康を脅かす実態を目の当たりにした。「なぜウクライナを苦しめるのか」と問い掛けた。

 一方、原発の立地や建設計画がある地域では、反対する住民団体のメンバーが改めて不安を募らせた。中国電力島根原発2号機(松江市)の運転差し止めを求める訴訟の原告団長の芦原康江さん(69)は「国際紛争に巻き込まれれば、原発のある場所は計り知れないリスクを負うことになると再認識した」と懸念した。

 同社が山口県上関町で計画する原発建設に反対する市民団体「原発いらん!山口ネットワーク」の小中進代表(74)は「戦争や自然災害での原発のもろさがあらわになった」と強調。プーチン大統領に対しては「放射線の危険性への認識が低い」と批判した。

(2022年3月5日朝刊掲載)

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