社説 中国全人代開幕 ロシア非難なぜ避ける
22年3月7日
中国の全国人民代表大会(全人代)が、きのう北京で開幕した。今年は5年に1度の共産党大会を控え、重要度が増している。習近平国家主席が北京冬季五輪・パラリンピックで権威を高め、異例の党総書記3期目を目指す途上にあるからだ。
ここに来て、そのシナリオは揺らいでいよう。同じ強権国家で蜜月関係にあるロシアがウクライナに侵攻し、国際社会の非難を浴びている。民間人に多数の犠牲をもたらし、あろうことか、稼働中の原発への砲撃にまで及ぶなど国際法違反の暴挙が繰り返されている。
中国は、国際社会に向けた発信を怠ってはならない。
全人代の政府活動報告で、李克強首相は「内外の情勢をみると、わが国が直面するリスクと試練は明らかに増えている」と述べた。ウクライナ侵攻の影響から、中国も免れないとの受け止めだろう。
経済を停滞させた新型コロナウイルス禍と同様、先が見通せず、また国際協調なしに出口にたどり着けない難題である。ところが、中国は自国優先の姿勢ばかりがにじむ。
2月上旬、北京冬季五輪開幕に合わせて訪中したロシアのプーチン大統領と会談した習氏は、北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対すると共同声明に明記し、結束を強調した。侵攻後もロシア軍の即時撤退を求める国連総会の決議を棄権し、圧倒的賛成での採択を横目にロシア寄りの立場を崩さなかった。侵攻を非難せず、対ロシア経済制裁にも反対している。
国際法違反の暴挙をなぜ非難しないのか。その姿勢は、軍事的な緊張を高めて譲歩を引き出そうとするロシアの無法を容認しているに等しい。
背景に、米国への対抗意識があるのは明白である。バイデン米大統領は暫定版の安全保障戦略指針で、中国を「唯一の競争相手」と位置付けた。ロシアとの連携を強める中国の動きは、対抗心の表れだろう。
習氏は、権力を一手にする「1強政治」を志向してきた。昨年11月、40年ぶりに採択した党の「歴史決議」は、その典型である。毛沢東、鄧小平と並び称して独裁に走る姿は、プーチン氏と重なる。香港での民主派抑圧や新疆ウイグル自治区での人権侵害で国際社会の批判を浴びても、はねつけて恥じない姿勢も似通っている。
それゆえに、ロシアとプーチン氏に対し、日増しに強まる風当たりは気が気でないはずである。習指導部は今月に入り、ウクライナ侵攻に対しては当面、態度を明確にせず、見守る方針を確認したとされる。ロシアのあまりの暴走に、国際社会の厳しい視線が自らに注がれるのを避けたい節がうかがえる。
李首相は、習氏のスローガン「共同富裕」を掲げ、格差の解消を推し進めると強調した。裏返せば、内政面で不安定要素を抱える表れでもあろう。2025年には全人口の14%が65歳以上という高齢化社会を迎える。国力を押し上げ、強権体制を支えてきた経済成長も、曲がり角にきているのだ。
国際社会で孤立するロシアの二の舞いを避けたいのであれば、一線を越えた主権侵害には非難してしかるべきである。侵略行為を食い止める協調と行動に今こそ、動くときだ。
(2022年3月6日朝刊掲載)
ここに来て、そのシナリオは揺らいでいよう。同じ強権国家で蜜月関係にあるロシアがウクライナに侵攻し、国際社会の非難を浴びている。民間人に多数の犠牲をもたらし、あろうことか、稼働中の原発への砲撃にまで及ぶなど国際法違反の暴挙が繰り返されている。
中国は、国際社会に向けた発信を怠ってはならない。
全人代の政府活動報告で、李克強首相は「内外の情勢をみると、わが国が直面するリスクと試練は明らかに増えている」と述べた。ウクライナ侵攻の影響から、中国も免れないとの受け止めだろう。
経済を停滞させた新型コロナウイルス禍と同様、先が見通せず、また国際協調なしに出口にたどり着けない難題である。ところが、中国は自国優先の姿勢ばかりがにじむ。
2月上旬、北京冬季五輪開幕に合わせて訪中したロシアのプーチン大統領と会談した習氏は、北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対すると共同声明に明記し、結束を強調した。侵攻後もロシア軍の即時撤退を求める国連総会の決議を棄権し、圧倒的賛成での採択を横目にロシア寄りの立場を崩さなかった。侵攻を非難せず、対ロシア経済制裁にも反対している。
国際法違反の暴挙をなぜ非難しないのか。その姿勢は、軍事的な緊張を高めて譲歩を引き出そうとするロシアの無法を容認しているに等しい。
背景に、米国への対抗意識があるのは明白である。バイデン米大統領は暫定版の安全保障戦略指針で、中国を「唯一の競争相手」と位置付けた。ロシアとの連携を強める中国の動きは、対抗心の表れだろう。
習氏は、権力を一手にする「1強政治」を志向してきた。昨年11月、40年ぶりに採択した党の「歴史決議」は、その典型である。毛沢東、鄧小平と並び称して独裁に走る姿は、プーチン氏と重なる。香港での民主派抑圧や新疆ウイグル自治区での人権侵害で国際社会の批判を浴びても、はねつけて恥じない姿勢も似通っている。
それゆえに、ロシアとプーチン氏に対し、日増しに強まる風当たりは気が気でないはずである。習指導部は今月に入り、ウクライナ侵攻に対しては当面、態度を明確にせず、見守る方針を確認したとされる。ロシアのあまりの暴走に、国際社会の厳しい視線が自らに注がれるのを避けたい節がうかがえる。
李首相は、習氏のスローガン「共同富裕」を掲げ、格差の解消を推し進めると強調した。裏返せば、内政面で不安定要素を抱える表れでもあろう。2025年には全人口の14%が65歳以上という高齢化社会を迎える。国力を押し上げ、強権体制を支えてきた経済成長も、曲がり角にきているのだ。
国際社会で孤立するロシアの二の舞いを避けたいのであれば、一線を越えた主権侵害には非難してしかるべきである。侵略行為を食い止める協調と行動に今こそ、動くときだ。
(2022年3月6日朝刊掲載)