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社説・コラム

天風録 『戦争犯罪を問う』

 愛想のいい態度を身につけ、典型的な悪役には見えなかった―。ユーゴスラビア連邦の大統領だったミロシェビッチ氏について、米国のオルブライト元国務長官が著書「ファシズム」にそうつづっている。印象は悪くなかったが、その後、虐殺などの罪に問われる▲1990年代の旧ユーゴ内戦やコソボ紛争でセルビア人以外の住民虐殺を指示した、と疑われたためだ。元国家元首を人道に対する罪で国際法廷が裁くのは初めて。注目の裁判だったが、判決が出される前に死亡した▲同じ法廷では虐殺を実行した部下に禁錮40年が言い渡された。「勝者による裁きだ」と公平性を疑う人もいよう。ただ、戦争犯罪を厳しく問う意識は確実に高まってきた。時代の流れだろう▲こちらは、訴追すべき罪状には事欠かなくなったようだ。ロシアのプーチン大統領である。他国の主権を侵害するウクライナ侵攻に始まって、住宅や民間施設、果ては原発にも砲口を向けたのだから、度を越している▲ロシアの暴挙を予想していたのか。くだんの著書でオルブライト氏は、プーチン氏をミロシェビッチ氏と同列視し、自由の破壊者台頭に警告を発していた。重く受け止めなければ。

(2022年3月7日朝刊掲載)

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