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広島世界平和ミッション 旅を終えて <3> 隠された核被害 実態伝え危機感共有を

 「放射能汚染による被害がこれほどひどいとは…」。旧ソ連で最初の核兵器用プルトニウムを生産したチェリャビンスク市郊外にあるマヤーク核施設周辺を巡った平和ミッション第四陣は、被害住民らに会い、異口同音に驚きを口にした。

 核施設から高レベル放射性廃液が直接投棄されたテチャ川流域では、今も残留放射能のレベルが高く人さえ住むことができない。

 「米国に追いつけ、追い越せ」。スターリン政権の下で、がむしゃらに核開発を進めてきた旧ソ連にとって、環境や住民の健康を無視した放射性廃棄物のずさんな管理は、すべての核兵器関連施設で行われてきたことだ。マヤーク核施設だけが特別ではない。

 天然ウランの採掘から精錬・濃縮、プルトニウム製造の再処理施設、核弾頭組立・解体工場、大気圏や地下核実験に伴う「死の灰」による放射能汚染、老朽原潜…。

開発の犠牲■

 核開発のあらゆる段階で放射能汚染を生み出し、工場労働者や周辺住民、実験作業員、兵士、風下地区の住民ら自国民を「安全保障」の名において犠牲にしてきた。

 最初に原爆を開発した米国も状況はそれほど変わらない。第六陣が施設内の見学を許可されたカリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所。冷戦時代に主として水爆やミサイル開発を担った研究施設でさえ、放射性物質のクリプトンなどを放出。広範囲の地下水汚染を生み、住民の健康にも影響が出ていた。

 ましてや兵器用プルトニウムを製造したハンフォード核施設(ワシントン州)や、ウラン235を取り出したオークリッジ核施設(テネシー州)などの核物質製造工場による環境汚染や被曝(ひばく)者の数は比ぶべきもない。

 第三陣がフランスで会ったアルジェリアでの大気圏核実験による被曝兵士、プルトニウム再処理工場周辺で、子どもたちに白血病が増えていると訴えた母親たち…。

 第五陣が訪ねたインドとパキスタンの市民は、互いに相手の核保有を批判した。そんな彼らにメンバーは「広がる核汚染 世界中にヒバクシャ」と英文で表記したイラスト入りの核被害地図を示し、「核開発自体が多くの被害者を生んでいる」と訴えた。が、自国のケースを含め事実を知る人はほとんどいなかった。

 米ニューヨークで、第六陣が会った劣化ウラン弾被害と見られるイラク戦争の米退役軍人らも、被曝者と言える。戦場となったイラクでは、一九九一年の湾岸戦争以来、被曝者が増え続け、白血病などで多くの子どもたちが犠牲になっている。

 ところが、どの核保有国も、自国の被曝者の存在や放射能汚染による環境破壊を隠すことで核兵器開発を推進してきた。「都合の悪い」ことは国民に知らせない。事実を知れば、政策を実行するのが困難になるからだ。

 核戦争が起こらなくても、すでに多くの市民が犠牲になり、次世代に大きなツケを残している。その事実を核保有国と保有に突き進もうとする国々の市民や政治家らにもっと伝える必要がある。

 こうした事実を人類の普遍的な知識として共有することで、核時代に生きる者としての「共通の危機感」も生まれ、「核抑止力」信奉を打ち破る有効な手段となるだろう。

日本の役割■

 そして被爆国の日本政府こそ、イニシアチブを取って、広島・長崎の被害とともに、世界の核被害の実態を知らせるために行動すべきである。

 民間と協力すれば、すでに写真展などを開催できる資料は整っている。

 最初にまず、「一国至上主義」政策を強め、一番世界に影響を及ぼしている米国内で巡回展示を始めてはどうだろう。米国市民の多くは、国家よりも個人としての判断や価値観を優先して見てくれるに違いない。

(2005年6月29日朝刊掲載)

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