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社説・コラム

[東日本大震災11年] 露の原発砲撃は「暴挙」 福島で被災 原産協会元参事 北村俊郎さんに聞く

 東日本大震災による東京電力福島第1原発事故からあすで11年。原子力災害がいかに恐ろしいか。チェルノブイリ事故で身をもって知るロシアが侵攻先のウクライナで原発を攻撃した。「とんでもない暴挙だ」と非難するのは日本原子力産業協会の元参事で、福島事故で避難者となった北村俊郎さん(77)だ。中国新聞が当時走らせた年間企画「フクシマとヒロシマ」。定点観測シリーズ「浜通りの50人」に協力してもらった専門家に改めて話を聞いた。(聞き手は下久保聖司)

送電線破壊なら惨事に 運転員疲労 リスク懸念

 日本の電力会社や原発メーカーでつくる社団法人に勤めた経験から、最悪の事態がいろいろ思い浮かぶ。原子炉建屋や格納容器が破壊され放射性物質が大気中に漏れ出すのがまず心配だが、それにとどまらない。

 福島第1原発は地震で緊急停止した原子炉を冷却できず炉心溶融(メルトダウン)に至った。構内の送電鉄塔が倒れ、非常用ディーゼル発電機も津波にのまれ冷却装置を動かせなくなった。一方で福島第1原発の5、6号機や福島第2原発、東海第2原発(茨城県)は外部電源をつないで事なきを得た。

 「第一のとりで」と言える外部電源や数キロに及ぶ長い送電線の確保がウクライナでも重要だ。だが、ロシア軍から銃弾などを激しく撃ち込まれ、大事な送電線や変圧器が破壊されないとも限らない。万一そうなれば原子炉が深刻な事態に陥り、放射性物質の漏れを外部から知るためのモニタリングポストも止まる。

 頼みの非常用発電機の状態も心配でならない。おそらく燃料の重油タンクは原子炉建屋の近くに無防備に置かれているのではないか。銃弾が当たって重油が流出すれば、福島と同じような事故になってしまう。

 原発運転員はロシア軍の監視下で心身とも疲れ、正常な運転やトラブル対応ができなくなる恐れがある。ウクライナには15基の原発が数カ所に分散していると聞く。送電線が破壊されて原子炉が停止したり、炉心冷却に失敗したりするリスクは高まっている。

 旧ソ連時代の1986年に起きたチェルノブイリ事故。恐ろしさを知るロシアが「なぜ、こんな暴挙を」と思う。あの国の科学者も原発攻撃の危険性を十分分かっているはずなのに、プーチン大統領が聞き入れないのか、無視しているのか。日本も地震や津波対策だけでなく、原発が戦時に標的にされることを改めて考えねばならない。

きたむら・としろう
 44年大津市生まれ。慶応大卒業後、日本原電で原発の安全管理に携わり、理事社長室長などを歴任。日本原子力産業協会参事も務めた。原発から7キロの福島県富岡町の自宅は帰還困難区域に組み込まれ、同県須賀川市で中古住宅を買い、避難生活を続けている。

(2022年3月10日朝刊掲載)

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