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祖国惨状 胸つぶれる思い 広島に滞在 ウクライナの女性 核の恐怖 「そうなったら、おしまい」

親類や友人 無事でいて

 ロシアの軍事侵攻から10日で2週間。広島市南区のボンダレンコ・ナディヤさん(70)は、胸がつぶれる思いで祖国ウクライナの惨状を見つめる。砲撃が続き、市街地を戦車が進む。さらには核兵器が使われるかもしれないという脅威にさらされている。「そうなったら、みんなおしまい」とボンダレンコさんは目に涙をためる。見えない核の恐怖に、自分の人生も脅かされてきた。(東海右佐衛門直柄)

 旧ソ連のチェリャビンスクで生まれた。1957年、この町から約100キロ北西の秘密核施設で爆発事故が起き、一帯の川や湖が放射性廃棄物で汚染された歴史がある。政府が事故を公表したのは32年もたってから。86年のチェルノブイリ原発事故も経験した。核というえたいの知れないものへの恐怖、健康への不安は心のどこかにいつもある。

 だから今回、ロシア軍が核兵器での威嚇を続け、複数の原発を制圧したことに身が震える。「寝ている間に、もし何か恐ろしいことが起きたらと思うと…。少ししか寝られないんです」

 今は日本人と結婚した娘の子育てを手伝うため広島に滞在しており、今春にも帰国する予定だった。侵攻後は、インターネット電話アプリ「スカイプ」で現地の親類や友人の安否を確かめる日が続く。キエフの友人は、砲撃が続く街で自宅の地下室にいるという。画面越しに切実な声が届く。「怖い。トイレも2人以上でないと行けないの。いつ爆弾が落ちて生き埋めになるか分からないから」。もどかしい。祈ることしかできないのか。

 青と黄のウクライナ国旗は、青空と、小麦畑に代表される豊かな大地を表すとされる。美しかった故国の風景が、いま灰色に変わっていくことがやるせない。「平和がほしい。ウクライナの青空を取り戻したい」。傍らにいた娘の平石エレナさん(42)も言葉を継いだ。「世界の人に伝えたい。傍観者にならないで。世界中の問題なんです」

    ◇

 平石さんたちは12、13の両日の午後3時と5時、広島市中区紙屋町の「カワイ広島」でウクライナ支援のためのコンサートを開く。エレナさんの息子の英心リチャードさん(14)らによるバイオリン演奏などがある。大人2500円、小中高生千円。収益はウクライナロータリークラブに寄付する。要予約。☎080(1901)4952。

(2022年3月10日朝刊掲載)

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