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社説・コラム

社説 東日本大震災11年 苦しむ人たち 忘れまい

 決して忘れてはならない。私たちが心に誓った3・11が、また巡ってきた。国のありようが問われた東日本大震災や東京電力福島第1原発事故は10年の節目から、さらに1年がたつ。

 長引くコロナ禍で往来が制約されたことに加え、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、被災地発の情報はどこまで届いているだろう。政府主催の追悼式もことしから営まれない。

 しかし記憶の風化には力の限り、あらがいたい。きょうは行方不明者や関連死を含めて2万2千人を超す犠牲者に、思いをはせよう。そして今なお避難生活を送るなど苦境にある人たちに、もっと目を向けよう。

 復興は進んでいる、との見方もある。確かに宮城県や岩手県などの津波被災地では計画されたインフラ整備は終盤を迎えている。地域経済の活性化の切り札とされる三陸沿岸道路は昨年末に全通した。かさ上げした防潮堤の完成率も9割を超す。

 一方で災害公営住宅などに移り住んだ人たちの地域コミュニティーの再生などは道半ばだろう。個々の被災者の心のケアも課題だ。歳月を経て重荷が増してくるのか、震災の被害を苦にした自殺は絶えないという。

 福島第1原発周辺の帰還困難区域の再生も遅れた。唯一、全住民が避難を続ける福島県双葉町では、ようやく一部で帰還準備が始まった。ただ避難指示が解除されても戻る人は多くないとみられる。希望を持てる雇用などが伴わないためだろう。

 こうした現状が残るのに、若い世代を中心に記憶の風化が指摘されるのは気がかりだ。

 だからこそ被災体験を胸に、一歩を踏みだした若者たちにエールを送りたい。震災時に小中学生だった世代は地域貢献の職場で働き始めている。看護師として、警察官として、ジャーナリストとして。自分にできるだろうかと悩みつつ、体験を語り始めた人たちも目立つ。

 3・11を伝える官民の伝承施設は震災10年を機に、被災3県で相次ぎ開館している。単なる証言活動から、重い教訓を継承し、発信する段階に入ったともいえよう。ただ担い手の高齢化やコロナ禍もあって、活動継続に不安の声もあるようだ。若い世代の力を生かしてほしい。

 発信に期待したいのは地域に根差した人たちだけではない。例えば米大リーグからも注目されるプロ野球ロッテの佐々木朗希投手だ。小学3年の時、岩手県陸前高田市を襲った津波で父と祖父母を失い、避難所生活を送った。その体験を語ることは少ないが、マウンドでの活躍は被災者に勇気を与えるだろう。

 私たちも、関心を持ち続けよう。中国地方には、今も1364人が避難している。被災者は遠い存在ではない。

 とりわけ被爆地として福島の人たちにも心を寄せたい。紙芝居作家の福本英伸さんが代表理事を務める広島の一般社団法人は、福島の原発と被爆地のつながりを描く新作のアニメーションを作ったばかりだ。こうした絆をさらに強められないか。

 コロナ禍でもオンラインで被災地と学校などを結び、津波災害や原発事故について学ぶことは十分にできよう。3・11を記憶に刻み直す―。災害列島に暮らす私たちの安全を考えることであり、あすのエネルギー政策を問い続けることでもある。

(2022年3月11日朝刊掲載)

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