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放射線被害「出さないで」 チェルノブイリ事故と東日本大震災体験… 広島のベラルーシ出身女性

原発砲撃 露に憤り

 チェルノブイリ原発事故で放射線被害を目の当たりにし、東京で東日本大震災も経験したベラルーシ出身の女性が広島市内にいる。通訳の仕事をしているナジェーヤ・ムツキフさん(41)=安佐北区。母国の隣ウクライナはロシアの軍事侵攻にさらされ、原発が砲撃された。東京電力福島第1原発の事故発生から11年。「放射線被害に苦しむ人をもう見たくない」。母国、そして隣国の平和を切に願う。(浜村満大)

 今月5日、ムツキフさんは原爆ドーム(中区)前でマイクを握った。「多くのベラルーシ国民は侵攻に反対している。絶対に核兵器は使ってはいけない」。ロシア軍によるウクライナ侵攻、プーチン大統領の核兵器使用を示唆する発言、そして現地の原発をロシア軍が砲撃したことに怒りと恐怖が募る。11年前、生まれたばかりの長男を抱えて、家族で東京から夫の出身地の広島に避難した記憶がよみがえる。

 東京を離れようとしなかった夫を懸命に説得した。「政府が大丈夫と言っても信じてはいけない。すぐに逃げよう」。1986年4月、5歳の時に起きたチェルノブイリ原発事故による異様な光景を目撃していたからだ。

 当時、原発から北に300キロ余り離れたベラルーシの首都ミンスクに住んでいた。原発の爆発後、激しい雨が降った。水たまりには黄色い泡がたっていた。「触らない方がいい」。大人の低い声が今でも耳に残る。友人の母はがんで亡くなり、親族は放射線の影響からか甲状腺を切除した。自身も一時期、甲状腺の異常で薬を飲んでいた。

 「放射線の影響をこの目で見て育ってきた。35年以上たっても被害はまだ続いている」とムツキフさん。ロシア軍の侵攻に胸を痛めていたさなか、衝撃的なニュースが飛び込む。ロシアに協力的な母国は2月末、憲法改正によって核兵器の配備が可能になった。「夫の亡き母は広島の被爆者でもある。まさか21世紀に核兵器が使われる可能性があることを私が原爆ドームの前で話すとは思わなかった」

 広島、チェルノブイリ、福島、そしてウクライナ。これまでの歩みで核被害を意識しないことはなかった。「黙っていては何も変わらない」。その恐ろしさを知る一人として、唯一の戦争被爆国から声を上げ続ける。

(2022年3月11日朝刊掲載)

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