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社説・コラム

社説 韓国大統領に尹氏 日本は関係改善に動け

 韓国大統領選で、野党第1党の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前検事総長が当選した。5月に就任する。

 5年ぶりとなる保守政権の誕生で、外交政策が大きく変わりそうだ。とりわけ注目したいのが、「過去最悪」とさえいわれる日韓関係の改善である。

 ロシアによるウクライナ侵攻などで、国際社会の緊張は高まっている。東アジアでも米国と中国が対立を強めており、情勢は予断を許さない。地域の平和と安定を実現するには、日米韓の連携強化は欠かせない。

 岸田文雄首相はきのう、尹氏と電話会談し、関係改善に向けた協力で一致した。対面での会談の早期開催も申し合わせた。お互い重要な隣国でもある。言葉だけで終わらせず、友好関係が一層発展するよう、双方とも努力しなければならない。

 大統領選は、国を二分する歴史的な大接戦となった。尹氏と与党候補との差はわずか0・73ポイントだった。

 尹氏に政治経験はなく、外交も素人と言わざるを得ない。それでも、政権交代を求める無党派の若者票が集まったようだ。

 ただ、先行きには不安要素も多い。不動産価格の高騰や高い失業率、格差拡大など、内政の課題は山積している。

 しかも、国会は「ねじれ」状態にある。対立候補側の革新系政党が議席の約6割を占め、尹氏の与党は少数議席にとどまる。少なくとも2年後の春にある次の総選挙までは、対立政党に阻まれて、思うような政策が打てない恐れがある。

 外交面では、国際関係のブレーンや外相に誰を起用するかが注目される。現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権は米国との足並みの乱れを含め停滞が目立つからだ。そんな外交政策の見直しに期待したい。

 バイデン米大統領は、海外の首脳のトップを切って尹氏との電話会談に臨んだ。中国や北朝鮮に対抗するため、日本を含めた3カ国のつながりを太くしたい強い思いの表れだろう。

 北朝鮮との関係の仕切り直しも、尹氏には求められる。現政権の融和政策は10年半ぶりとなる南北首脳会談や、初の米朝首脳会談につながった。しかし結局は、北朝鮮に振り回されてしまい、核・ミサイル開発は止められなかった。それどころか、今年に入ってからは、「極超音速ミサイル」とするミサイルや、変則軌道の短距離弾道ミサイルなどを相次いで発射し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を加速している。

 野放しにしていたら、北朝鮮はさらに増長しかねない。挑発をやめさせるため、日韓関係がいかに重要か、互いに再認識する必要がある。尹氏は選挙期間中、「未来志向の関係を築いていきたい」と首脳間のシャトル外交を訴えていた。実現すれば信頼回復のきっかけになろう。

 もちろん歴史認識などで両国の隔たりは大きく、懸案の解決は容易ではあるまい。例えば徴用工問題では、日本企業に賠償を命じた韓国の最高裁判決が確定したが、日本は国際法違反だと反発している。尹氏には、自ら掲げている「包括的な解決」に向け、努力してもらいたい。

 日本政府の姿勢も問われる。意見が違うから話し合いもしない―。そんないびつな今までの流れは断ち切って、共通のゴールを目指し、対話を重ねる関係に転換しなければならない。

(2022年3月12日朝刊掲載)

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