×

連載・特集

広島世界平和ミッション 旅を終えて <7> 国際協力と被爆地 連携強め実態より広く

 南アフリカ共和国で訪ねたエイズ患者、イランの毒ガス被害者、ウクライナのチェルノブイリ被曝(ひばく)者、ボスニア・ヘルツェゴビナで出会った夫や息子を虐殺された女性たち、インドやパキスタンの大都市のスラムで暮らす子どもたち…。

 平和ミッションのメンバーともども私たちは、現地での交流を通じて、その国が抱える深刻な問題に触れ、学んだ。こうした国々では、反核運動に取り組む人たちの活動も、貧困克服や教育・医療の向上、人権や民主主義の確立と分かち難く結びついていた。彼らに必要なのは、そうした手助けに役立つ国際協力だ。

 もっとも、広島がそのすべてを背負うことなどできるはずもない。しかし国際協力という形で発展途上国などで汗を流す日本の若者は多い。実際、南アやボスニア・ヘルツェゴビナ、ウクライナでは、彼らの協力を得て交流が実現したケースも多い。

 国際協力で海外へ出かけた若者と広島が結合できれば、原爆被害の実態を伝え、平和や核廃絶を願う日本人の心が世界の人々により理解されるだろう。

 ちなみに国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊で現在派遣されている人数は約二千四百人。七十カ国に散らばっている。四十歳以上のシニア海外ボランティアも約八百人が五十三カ国で活躍する。彼らは学校や地域で、保健医療や農業指導など多岐にわたり地道に活動を続けている。

原爆展開く■

 こうした隊員たちの出発前の事前研修の一環に「ヒロシマ学習」を加えることはできないだろうか。専門分野での貢献だけでなく、被爆地での学習を通じてヒロシマの持つ意味を学び、視覚教材になる原爆関連ビデオや被爆写真ポスターなどを赴任地へ持参する。そして現地の人々との信頼関係が生まれたところで被爆の実態を伝える。

 核保有国や潜在核保有国ならより効果が高いかもしれない。しかし他の国々でも「同じ核時代に生きる人類」としての価値観を共有できるだろう。

 頼もしいのは、既に現地に赴任している青年海外協力隊員が、仕事の傍ら原爆展の巡回展に取り組んでいることである。

 ミッションを主催した広島国際文化財団には「被爆体験の継承と平和創造を目的にした市民活動」を助成する「ヒロシマピースグラント」の制度がある。その助成団体に本年度はケニアとタンザニア、チリ、パキスタンのJICA関係者の事業四件が選ばれた。

重要さ増す■

 どれもが隊員たちが協力して原爆展を開催するというものだ。「ケニア国内約二十カ所で原爆ポスター展を展開し、平和啓蒙(けいもう)活動をする」「パキスタンの人々に核の恐ろしさや事実を伝え、平和への意識を高めるきっかけとする」。企画の目的にはこうある。

 JICAなどの国際協力事業と広島がドッキングすれば、日本の平和貢献は一段と強力なものになるだろう。被爆六十年がたってなお、核兵器による危機が世界を覆っている状況下で、若い隊員らがヒロシマを学ぶことは、同時に体験継承にもつながる。

 JICAに限らず、海外とつながるさまざまな非政府組織(NGO)の活動にも取り込んでほしいものだ

 広島市には二〇〇三年に国連訓練調査研究所(ユニタール)アジア太平洋地域広島事務所が開設された。主としてアフガニスタンなどの復興支援に力を入れているが、活動の幅は広い。こうした国連機関とも密接な関係を築くことでより広く被爆の実態を伝えていくことができるだろう。

 同事務所のナスリーン・アジミ所長(45)も「国際協力と広島とのかかわりは欠かせない。核状況が危険な時だけに、一段と重要さが増している」と強調する。

 国際協力と広島。それを発展させるためには、被爆地の市民、行政、大学、経済界などが連携し、受け入れ態勢を充実させることも肝要だろう。

(2005年7月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ