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連載・特集

緑地帯 野中明 ゲンビとわたし①

 広島市の中心部を東西に貫く平和大通り。東に進んだ先に、樹木が生い茂る小高い丘といった風情の比治山がある。その頂上に立つのが私の職場、「ゲンビ」の愛称で知られる広島市現代美術館だ。

 施設改修工事のため一昨年の12月から休館しているゲンビは、来年の3月にリニューアルオープンする予定だ。なので、昨年の4月に長崎県美術館から着任したばかりの私は通常のゲンビの運営にまだ直接携わったことがなく、いわばゲンビ初心者である。でも、何とかゲンビに話を寄せたいので、ゲンビが作品を所蔵しているアーティストについて、個人的な思い出を軸に書いてみることにした。

 いきなり間接的な話題になることをお許し願いたい。まずはゲンビがその作品を所蔵していないアーティスト、ダニ・カラヴァン(1930~2021年)の話題から。昨年惜しくも他界したカラヴァンは平和をテーマとした環境彫刻で知られる。縁あって長崎県美術館時代に彼の回顧展に携わった私は、機会を捉えては世界各地に設置されている彼の作品を訪ね歩いた。広大な敷地の中にアートワークが点在するファットーリア・ディ・チェレ(チェレ牧場)という私設のコレクションがフィレンツェ近郊の街ピストイアにある。そこに設置されているカラヴァンの作品についての感想を、後日作家本人に話した。しかし彼は自分の作品の話題はそこそこに「井上武吉の作品が最高だっただろう」と目をキラキラさせながら言うのだった。(のなか・あきら 広島市現代美術館副館長=広島市)

(2022年3月15日朝刊掲載)

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