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連載・特集

緑地帯 野中明 ゲンビとわたし④

 ゲンビ周辺の屋外にはいくつかの作品が設置されている。その一つに、風を受けながらゆっくりと動く彫刻「私たちの星」(1988年)がある。作者は兵庫県三田市在住の新宮晋(1937年~)。新宮はこれまで一貫して風や水などの自然エネルギーで動く作品を制作してきた。彼の作品が謳(うた)うのは地球の自然環境や宇宙のしくみといった壮大なテーマだ。

 新宮もまた、長崎県美術館時代の私が力技で長崎ゆかりの作家と位置付け展覧会を開催したアーティストの一人だ。長崎県の大島にある大島造船所。炭鉱閉山後の地域経済を支え続けたその会社の設立者であり初代社長の南景樹こそ、新宮の才能をいち早く見抜いた人物だった。ローマ留学中の新宮に出会った南は作家の帰国を促し、当時社長を務めていた大阪造船所(現ダイゾー)内にアトリエを提供。活動を支援している。大阪万博に新宮が出品した作品もそこで制作されたものだ。ちなみに、現在の私の上司は制作中のその作品に向かって石を投げて遊んでいたらしい…。話が逸(そ)れたが、つまりは長崎と新宮どちらも南の恩を受け今日に至っている。ということは長崎と新宮は兄弟のような関係にある。であるならば、新宮は長崎ゆかりの作家以外の何者でもない…はず。

 昨年の11月、新宮は夫人と連れ立ってゲンビを訪ねてくれた。「こんなアイデアを思いつき、それを実現していたなんて自分自身に感心する」とは約30年ぶりに自らの作品と対面した際の作家の言葉。どんなアイデアなのか、ぜひ直接確認してほしい。(広島市現代美術館副館長=広島市)

(2022年3月18日朝刊掲載)

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