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放射線のなぜ 中高生に講義 広島大の原医研 科学的な知識補う場に

 放射線って何? なぜ人体に影響があるの? 中高生が持つそんな素朴な疑問に、広島大の原爆放射線医科学研究所(原医研、広島市南区)が答えている。平和学習で広島を訪れる学校側の求めに応じ、研究者が授業形式で解説。原爆資料館(中区)の見学や被爆者の証言だけでは得にくい、科学的な知識を補う場として支持されている。(馬場洋太)

 5日、原医研に隣接する広島大医学部の講義室。「『ベクレル』は1秒間に来る球の数、『シーベルト』は球の硬さも加味した体に当たった時の『痛さ』」。放射線をボールに例える原医研の佐藤裕哉助教(36)の話に、甲南女子中(神戸市)の2年生が聞き入った。

 佐藤助教は、強い放射線を浴びて人体の設計図であるDNAが傷つき、発病する仕組みを模式図を交えて解説。「放射線は使い方次第で有用にも害にもなる。政治家に任せず、自分たちで考えてほしい」と語り掛けた。目に見えない放射線を理解する手助けにと、微量な放射線を感知して線量計の数値が上がる様子も披露した。

 同校は、広島での研修メニューの一つとして、今回初めて原医研に講義を依頼した。理系志望などの30人が選択した。中倉優さん(14)は「福島第1原発事故の時、父に聞いても分からなかった『ベクレル』がやっと理解できた」。引率した森未貴教諭(46)も「専門的すぎるかと心配したが、分かりやすかった」と喜ぶ。

 原医研によると、中高生の受け入れは最近5年間では年4、5校程度。大都市圏の中高一貫校が目立つ。「ヒロシマを感情的に捉えるだけでなく、客観的な見方も学べる」と評価し、1985年から毎年訪れるフェリス女学院高(横浜市)のような常連校もある。

 ホームページなどでの積極的なPRはしていないが、新規の依頼もあるという。講義の担当者は、依頼内容によって決めている。

 引き受ける機会が多い佐藤助教によると、福島第1原発事故で「帰還困難」の報道に接するためか、最近は「広島には放射能は残っていないんですか」との質問が目立つという。「フクシマと関連付け、68年前の遠い出来事だったヒロシマが身近な問題として捉えられている」と受け止める。

 稲葉俊哉所長(54)は「ヒロシマの実態を理解することに加え、学問として、どう深められているかを中高生に紹介できる貴重な機会にもなっている」と指摘。ただ、専属スタッフがいないなど受け入れ態勢には限界がある。今後も、研究者の都合が付く範囲内での受け入れは続ける考えという。

原爆放射線医科学研究所(原医研)
 1961年、原爆放射能医学研究所として広島大に設立され、2002年に現在の名称で改組された。被爆者の病理標本やカルテなどを保管し、放射線障害のメカニズム解明や治療法の開発に取り組む。11年に起きた福島第1原発事故では、避難住民の健康調査や線量測定に当たっている。所属する研究者は18日現在で44人。

(2013年10月21日朝刊掲載)

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