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宗教要素排除を提案 8・6原爆供養塔前慰霊行事 広島市「政教分離抵触の恐れ」

 毎年8月6日に平和記念公園(広島市中区)の原爆供養塔前で遺族や宗教者が営む慰霊行事を巡り、市は17日、主催する広島戦災供養会に対し、宗教的な要素を行事からなくすよう提案した。同会の事務局を市が担っているため、憲法が定める政教分離の原則に抵触する可能性があるとしている。関わってきた宗教者からは突然の提案に反発する声が出ている。

 同会は遺族や宗教者などで構成し、引き取り手のない遺骨を納める供養塔を管理している。約70年前から宗教の違いを超えた慰霊行事を供養塔前で開催。読経や祈禱(きとう)など、神道やキリスト教、仏教にそれぞれのっとった追悼行事を続けてきた。事務局は市調査課が担っている。

 同課によると、会や慰霊行事の運営に市が関わっていることから、政教分離の観点から問題視する声が市に寄せられている。市はこの日、中区であった非公開の同会役員会で、慰霊行事を、同会主催で無宗教の黙とうや献花をする部分と、約30の宗教派でつくる広島県宗教連盟(中区)が営む部分の二つに分ける考え方を示した。同会役員会は今後、対応を協議する方針。

 地方自治体の政教分離を巡っては、2021年2月に最高裁が儒教の祖、孔子を祭る孔子廟(びょう)のために那覇市が公有地を無償提供するのは違憲と判断するなど、注目が高まっている。

 市立大広島平和研究所の河上暁弘准教授(憲法学)は「政教分離は、宗教弾圧や争いにつながった歴史を踏まえた大事な原則。市が関わる行事が宗教的な内容を含むなら抵触する可能性はある。不要な誤解や批判を避けるための工夫や対応が求められる」とみる。

 一方、宗教者には戸惑いが広がる。供養会に役員を出す県宗教連盟の17日の理事会では「宗教を超えて協力してきた努力を否定されるようで、納得できない」などの声が上がった。供養会の役員を務める同連盟の福田誠二主事は「市は従来の在り方の何が問題かを丁寧に説明してほしい。その上で対話を重ねていきたい」と話した。(小林可奈)

(2022年3月18日朝刊掲載)

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