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知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態 第6部 取材を終えて <3> 法の視点 人道法違反は明確 国連人権委で討議

 「劣化ウラン弾は核兵器のような大量破壊兵器ではなく通常兵器。使用は国際法違反ではない」

最低17ヵ国が保有

 放射能兵器である劣化ウラン弾の人体や環境への影響を認めず、対戦車砲弾としての「威力」を喧(けん)伝する米・英両国。生産国のロシア、フランスとともに「通常兵器」として兵器輸出を図る。

 その結果、今ではイスラエル、サウジアラビア、パキスタン、タイ、台湾など少なくとも十七カ国が劣化ウラン弾を保有する。このままでは、世界の国々が劣化ウラン弾を購入し、紛争・戦争の際に使用する可能性は高まるばかりだ。

 米・英の国防関係者らが強調するように、劣化ウラン弾そのものを禁止する国際条約は存在しない。しかし、国際的な人道法の立場から「劣化ウラン弾は明らかに違法兵器」と指摘する専門家は少なくない。

 「武力紛争と人権」を専門に、民間人としてジュネーブの国連人権委員会に長年かかわってきた米国人弁護士のカレン・パーカーさん(55)=サンフランシスコ市=も、その一人である。

 「兵器を禁止するには二つの道があります。一つは特定兵器禁止のための国際条約の成立。もう一つは、定着した人道法を犯して兵器は使えないとの立場から禁止を求めることです」。パーカーさんはこう説明した上で、劣化ウラン弾が人道法に違反する理由を四点挙げた。

 一 劣化ウラン弾を使用すると微粒子が生まれ、戦場だけでなく周辺地域、さらには非参戦国にまで飛散し危害を与える(兵器使用の影響は戦場のみに限定され、地理的にその範囲を超えてはならない)。

 二 劣化ウランによる健康被害は、戦争終結後も何年も続き、先天性障害など次世代にまで影響する(人体への影響は戦争中のみで、後々まで続くものであってはならない)。

 三 イラク南部のように多くの民間人、特に罪のない子どもたちが白血病などの疾病に苦しみ、放射線や化学的毒性作用で次世代にも悪影響を及ぼしている(不必要なまでに非人道的であってはならない)。

 四 劣化ウラン弾の使用は大地や大気、水を広範囲に汚染し、植物などの生態系に悪影響を与えている(長期、広範囲に環境汚染を引き起こしてはならない)。

決議反対は米だけ

 「戦争におけるこうした人道主義の一般原則は、一八九九年と一九〇七年のハーグ条約や、二五年と四九年のジュネーブ協定、四五年のニュルンベルク憲章などの国際法で定着している。八六年に国際司法裁判所が出した『核兵器による威嚇や使用は国際法、とりわけ人道法の諸原則に一般的に反する』との勧告的意見も、モラルに縛りをかけるという点で意義が大きい」とパーカーさん。

 米国を中心にした国際非政府組織(NGO)の「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」、「人権ウォッチ(HRW)」なども、同じ立場から取り組みを強めている。

 パーカーさんらは九六年、ジュネーブの国連人権委員会に劣化ウラン弾をはじめ、核兵器、化学・生物兵器、クラスター爆弾などの使用禁止決議をするよう働きかけた。その決議は同年八月、差別防止小委員会で賛成十五、反対一、棄権八で採択された。小委員会は人権委員会に決議を送り、人権委員会は委員会決議を国連総会に送付できる。

 「決議に反対したのはアメリカの委員だけ。特に劣化ウラン弾を含めることにね」と、パーカーさんは自国政府の姿勢を批判する。今春もこの問題が人権委員会で取り上げられた。劣化ウラン弾への認識が高まるにつれ、各国の関心も強まっているという。

重み増す国際世論

 パーカーさんは「特定の法律ができないと兵器を禁止できないと思うのはやめよう」と、世界の人々に呼びかける。「戦争に伴う人道法のほかにも国連憲章、国際人権規約など、その内容を敷延すれば兵器を禁止できる国際法はいくつもある。もっと多くの人たちがそのことを知らないと…」

 核兵器の使用禁止や廃絶運動と同じように、劣化ウラン弾のそれも、国際世論の力にかかっている。

(2000年7月11日朝刊掲載)

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