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「黒い雨」救済 新基準通知 厚労省 「否定できず」も対象 1万1000人認定見通し

 広島原爆の「黒い雨」の被害者の救済拡大に向け、厚生労働省は18日、4月1日に運用を始める新たな被爆者認定基準を関係自治体に通知した。「黒い雨に遭ったことが否定できない場合」でも、在学証明書などで生活実態が確認できれば被爆者と認めると明記。かねて認定要件の11疾病に含めてきた白内障については手術歴も対象に加える。厚労省は、一連の新基準で約1万1千人が新たに被爆者認定されると試算する。(樋口浩二、明知隼二)

 「黒い雨に遭った」ことの要件は、雨を浴びた、服がぬれた場合のほか、雨に遭ったことが否定できない場合も含める。戸籍や在学証明書といった当時の居住地や通学先、勤務先に関する資料を参考にする。

 がんや白内障、造血機能障害など被爆者認定要件の11疾病の範囲は維持。うち白内障に関しては、現在は症状がなかったり、放射性由来が定かでなかったりしても、手術歴を示す書面があれば被爆者と認める。

 新基準運用の大きなきっかけとなったのは、昨年7月の広島高裁判決だ。国の援護対象区域外だった原告84人全員を被爆者と認めた。当時の菅義偉首相は上告を断念。「原告と同じような事情にある人」を救済するとの首相談話を閣議決定した。高裁判決の事実認定で使われた資料は、今後の個別審査でも活用する。

 厚労省は昨年秋から広島県・市、長崎県・市と協議。昨年12月、広島側の救済に絞った改正案を示していた。長崎側が求める、国の指定地域外で認定されていない「被爆体験者」は新基準の対象外とし、今後も話し合いを続ける。

 広島県・市には約2千件の被爆者健康手帳の申請が寄せられており、4月1日から認定を始めるという。市援護課は「国と県市で具体的な事務レベルの協議を重ねてきた。できるだけ早く手帳を交付できるようにしたい」としている。

 「黒い雨」は、米国による原爆投下後に降った放射性物質を含んだ雨を指す。国は大雨が降ったとされる爆心地から北西へ長さ約19キロ、幅約11キロの範囲を援護対象区域に指定。当時区域内にいた人は無料の健康診断に加え、特定の病気を発症した場合は被爆者健康手帳を受け取れる。

(2022年3月19日朝刊掲載)

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