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社説・コラム

社説 中央図書館の移転計画 最初から議論やり直せ

 予算案は、かろうじて市議会を通ったものの、なぜ移転先が駅前の商業施設なのか。市民の疑問はくすぶったままだ。

 広島市が進める中央図書館などの移転計画である。県庁の北西にあるのを、JR広島駅前の商業施設「エールエールA館」の8~10階に移すという。関連費用を含む市の一般会計当初予算案がおととい、可決された。

 すんなり認められたわけではない。小差での否決となったとはいえ、関連費用の大半を削る修正案が出されたほどだ。

 市議会は、現在地での建て替えを含めた丁寧な検討・説明を市に強く求める付帯決議を全会一致で可決した。その重みを市は受け止め、市民の疑問や批判に向き合わねばならない。

 市の案では、映像文化ライブラリーと、こども図書館も一緒に移転させる。面積は1万3千平方メートルで、現在の3施設の1・3倍となる。整備費は約96億円と見込み、2025年度中の開館を目指すという。

 A館を選んだ理由として、中央図書館のある中央公園には移転に適した規模の空きスペースがない▽広島駅に近く交通の便が良く、市内外からの利用客も見込める―などを挙げている。

 中央図書館は、開館から半世紀近くたち、老朽化が目立つ。建て替えか移転する必要性を認めない人はいないだろう。

 ただ、市民グループが呼び掛けたA館への移転反対署名には2万5千筆も集まった。なぜ、これほど市の案は不評なのか。

 最大の要因は、広く意見を聞くことが当初から不足していた上、十分な議論が尽くされていないことだろう。

 加えて、A館への移転が唐突に出てきたことだ。市が当初打ち出していたのは、中央公園内での再整備案だった。ところが昨年夏、移転先候補になぜか広島駅周辺を加え、11月にはA館への移転方針を表明した。A館ありきで駅周辺を候補に挙げたのか。そんな疑念が拭えない。

 A館を管理運営する市の第三セクター「広島駅南口開発」が苦境にあるから、なおさら、そう思えてしまうのだろうか。

 市は昨年、40億円を超す南口開発への貸付金の金利を引き下げ、今後得られるはずだった6億6千万円を放棄した。それでも焼け石に水かもしれない。

 というのも、周辺の地価下落の影響でA館は賃料引き下げを余儀なくされ、南口開発の21年3月期決算は、3年連続の減収減益となっているからだ。

 さらに今後、新たな駅ビルと結ぶ歩行者専用橋につながる入り口や、通路新設などで10億円を超す費用が必要となる。駅ビルを含め、駅周辺には新たな商業施設が次々オープンする。競争激化は必至だろう。

 そんな三セク救済のための図書館移転だとしたら、本末転倒も甚だしい。そうではないというなら、市は、A館を選んだ理由や経緯を説明すべきである。

 今からでも遅くない。一から考え直しては、どうか。現在地建て替え、中央公園内での移転、A館への移転の三つを詳細に比較検討できる資料を作って、関係者に丁寧に説明・理解してもらった上で移転先を決める―。市議会が付帯決議で市に注文していることでもある。

 市議会には、市が真剣に取り組むよう、チェックする責任を果たすよう求めたい。

(2022年3月19日朝刊掲載)

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