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連載・特集

緑地帯 野中明 ゲンビとわたし⑤

 青木野枝(1958年~)は素材に鉄を用いた彫刻作品で知られる。鉄と聞くと重量感や堅牢(けんろう)な構築性といったものを連想するかもしれないが、彼女の作品の佇(たたず)まいはそれとは対極にある。溶断により鉄板から切り出される無数のピース。そのピースどうしを溶接し、つなぎ合わせることによって生み出される作品は、まるで空中に浮かぶドローイングのようだ。

 しつこくて恐縮だが、またまた「力技」の話。作家としての青木と長崎とは直接的には縁を持たない。しかし、青木の父方の親族が長崎で医師の家系をかたちづくっており、父親自身も幼少の頃より親戚を頼ってよく長崎に滞在していたという。ちなみに青木の父はジャーナリストの青地晨(本名青木滋)である。このことを知るや否や私の中で青木は立派な長崎ゆかりの作家となった。すぐに彼女の個展を開催する準備に取り掛かったことは言うまでもない。

 2019年に実現した展覧会には青木自身によって「ふりそそぐものたち」というタイトルが付された。青木は東日本大震災が勃発した11年以降「ふりそそぐもの」あるいは「ふりそそぐものたち」と名付けられた作品を制作していた。作家自身は決して明言しなかったが、展覧会に込められた彼女の思いは明らかだった。

 ゲンビは青木の作品を3点所蔵している。「晴玉」と名付けられたそれらの作品の、巨大な雪だるまのスケルトンのようなかたち。見方によっては原子の連なりのように見えなくもない。 (広島市現代美術館副館長=広島市)

(2022年3月19日朝刊掲載)

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