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社説・コラム

天風録 『ボルゴグラードと広島』

 20年余り前のハリウッド映画が、妙に記憶に残る。「スターリングラード」。先の大戦の行方を決した独ソ攻防戦の舞台がタイトルだ。無名のロシア人狙撃手が攻め込むナチス将校を次々倒す▲米国側がソ連兵をヒーローに描いたことに、冷戦は終わったと実感した。ただ終始、暗く重苦しい。街の大半が廃虚と化した史実が再現されたからだろう。いまウクライナから日々伝わる、がれきの山と重ね合わせる▲東側世界に君臨した独裁者の名を冠す都市はやがてボルゴグラードに改称する。50年前、姉妹都市の縁を結んだのが広島市だ。現代の独裁者の暴挙を受け、記念の交流事業を取りやめたという。ふと気になった。現地のお好み焼き店はどうなったか▲時は冷戦の雪解け直後、友好の証しにと生協ひろしまが出店した。一度閉鎖され、てこ入れしたが「随分前に閉店した、と聞いたきり」と当時を知る関係者。広島の店に修業に来ていたロシア人たちはどうしていよう▲この半世紀、同じ戦災都市として被爆地と絆を深めたはずの「ボルゴ」。新冷戦ともいわれる状況下で報道がゆがめられ、真実が伝わらないとしても、不戦の誓いは街に根付いていると信じたい。

(2022年3月21日朝刊掲載)

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